幻の泡盛『春雨』物語(1)
11月1日は“泡盛の日”。この日にちなんでryuQでは、那覇市小禄に看板も出さずに日々“幻の泡盛”と呼ばれる泡盛『春雨』造りに励まれている宮里酒造所へと取材してきました。匠の人たちの物語をお届けします。
「泡盛って、そもそもは“焼酎”でしょう?」
ところが沖縄で泡盛は、単にお酒という嗜好品の枠を超え、
“文化”と“ステータス”と“スピリッツ(精神)”でもあるのです。
実は泡盛とは、蒸留酒の中でもウイスキーやブランデーよりも歴史が古く、世界最古であるということ。
中国など海外から渡来してきたものではなく、独自の文化であったというのが誇りです。
またステータスでもあったというのは、かつて首里(の士族など)ではそれぞれのお屋敷に蔵を構え、
「金庫と泡盛貯蔵の蔵の2つの鍵があっても、金庫の鍵は預けたとしても番頭さん(執事)にさえ泡盛を貯蔵している蔵の鍵は預けなかった」といわれていたと、宮里酒造所の三代目社長・宮里徹さん。
また、ただの嗜好品ではないもうひとつの“スピリッツ”の部分(沖縄文化)では、琉球王朝時代には国家行事としての御神事に神酒として使われていたという泡盛。
今でも年中行事などで御先祖や各集落の祭祀で神々への最高の捧げ物として大切な役割も担う代物なのです。
現在も昔と変わらない『春雨』の朱色のあのラベルの中に、それらが物語られているかのようでお尋ねしてみると、
この泡盛『春雨』とは、宮里酒造所の初代、先代社長が沖縄戦を体験し、復興への想いを込めて手掛けはじめたものなのだといいます。
「避難先のガマ(防空壕・洞窟)で空襲を受け、ほぼ壊滅に近い中、親父たちは崩れ落ちた壕から奇跡的に生き残りました。
沖縄の島が沈んでしまったのかと思ったほどの砲撃を受けたこの島が、ボロボロになりながらも沈んでいない。ほとんど焼かれてしまい何も無い中でまず何をしたかというと、そんな状況の中でも人々は復興させようと思ったらしいですね。
本当に何も無いから、もう神様にしか頼るしかないですよね。神への捧げものとしての他にも、復興の交渉の際に客人をおもてなしする為のものとして、何も無い時代に泡盛は精神的な支えとしても欠かせなかったわけです。
何も残っていなかったけど、人々は生き残り大地はまだ残っていた。そして変わらず季節はまた巡ってきた。
その季節に希望をみるとしたらやはり“春”。そして、季節のほか、やはり変わらず降ってきたものは“雨”。それは恵みの雨でもありました。
希望の“春”と恵みの“雨”で『春雨』。
ラベルには、福笹、打ち出の小槌、稲穂、杯、鳳凰が描かれ、色も朱色と、すべて目出度いものをそこにすべて表しているのには、そんな希望が込められているのです」
戦後まもなく、復興の支えとなる泡盛を製造するため、宮里酒造所を立ち上げる際に銘柄を『春雨』とした背景には、そのような物語がありました。
また先代のその想いが込められた銘柄とラベルを、今も敬意を持って守り続けているのには、そのような深い意味があったのです。
そうやって戦後にはじまったばかりの酒造所が、わずか三代で“焼酎ランキング 全国第2位”に評価されるような泡盛を製造するまでに至った経緯とは?
幻の泡盛『春雨』物語は、後編までさらにまだまだ続きます。(※明日掲載予定)
(取材: 桑村ヒロシ、取材協力: 宮里酒造所、高蔵住宅)
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