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『北木山夜話』の余話

『北木山夜話』の余話
 先月の25日に行った読谷村の役所一帯が広々としていて、米軍基地が返還されるということはこういう案配かと、北谷や那覇の新都心あたりの返還地との違いにいろいろ思う。
 十年後、二十年後、さてこの島にどれだけ広々とした気持ちいい空間が増えているのか、想像してみよう。若い頃は、十年後・二十年後なんて、まったく実感がわかない時間だったが、四十歳も後半にさしかかった今、あっという間なんだってことがよく分かる。今から十年前も、二十年前も、僕は「沖縄県産本」をつくってました。

北木山夜話/宮城信博著 今年に入ってから月に一冊程度の割合で、沖縄関係の本を新聞の書評欄で紹介している。たまたまなのだが、今年はもしかして沖縄関係本が例年にも増して多く出ているのかしら。
 その紹介した本の中からちょっと変わった本とそのエピソードを今回はご紹介したい。「北木山夜話」著者は宮城信博氏。現在、首里の虎頭山にある八重山料理の店「潭亭」の主人。発行もその潭亭となっている(発売元は沖縄タイムス社)。
 その書評を琉球新報で書いたのだ。
〈一種の名著である、と言ってしまいたくなる。現在首里にて八重山料理の店を営んでいる八重山出身の著者が、見たり、聞いたりして、思い至ったさまざまなスライス・オブ・ライフを、小話スタイルでまとめた一冊である。「北木山」は八重山の異称〉
 詳しくは琉球新報のサイトで公開されているので読んでほしいのだが、とにかく僕好みの本でとても楽しく読めて、書評……というか、感想文を書くのも楽しかった。渋いけれども飄々とした軽さが、ジャケットデザインや目次を置かない構成などから感じられる一冊。
北木山夜話
 しばらくして、事務所に僕宛に電話があった。ものすごく低音の男性が「宮城ですが……」。すぐにピンときた。「北木山夜話」の著者だ。あの書評に何か……と恐る恐る話しをすると、逆だった。書評を気に入ってくれて、近々ぜひ「潭亭」で一献……というお誘いであった。こういうことは珍しいのである。というか初めてのことだ。僕もぜひお会いしたかったので、喜んで出かけたいったのが、三月の月のきれいな夜(だったかな)。

 その夜は店の休みの日で、貸し切り状態という、とても贅沢な一夜を過ごしさせてもらった。ロケーションが素晴らしくて、虎瀬山から対面のライトアップされた首里城がまるごと見渡せる。那覇の夜景はいわずもがな。美味しい料理と泡盛を味わいつつ、宮城氏と本の内容のことや八重山のことなど、いろいろさらに興味深い話しをさせてもらった。
 著書を読んだ時もそうだったが、話しをしていて、「もしかしたらずっと前に、あの本で原稿を一度だけお願いした人と同一人物ではないだろうか」と思い、てーげー酔いも回ってきたので、記憶が確かなうちに尋ねてみた。
 あの本というのは、僕が初めてまるごと一冊編集を担当した沖縄本である『波打つ心の沖縄そば』のこと。今からさかのぼること二十三年前の1987年。沖縄出版に入社したての僕は、たいした経験もないのにさっそく一冊任された。しかも自分の企画なのだ。
 今でこそ沖縄そば本は店紹介ガイドをはじめとしてたくさん出ているけれど、当時、沖縄そばだけで一冊なんて企画はまったくなかったのだ。自称世界初のまるごと一冊沖縄そばの本だった。(注:それ以前に麺メーカーのサン食品から「沖縄そばに関する調査報告書」が出されていますが、一般書としての話です)

波打つ心の沖縄そば 沖縄そばを切り口にして、沖縄の生活、文化のおもしろを語る、サブカル本として作ったのだが、その中でいろんな人に沖縄そばエッセイを書いてもらった。うちなーんちゅはもとより、韓国の人、イギリスの人もいて、世代も様々だった。いったいどうやって探してきたのだろうか、もうよく思い出せないし、それ以後会ったことのない人がほとんどだ。その中のひとりに、八重山の「うしんまそば」と「黒島そば」の事をとてもおもしろく書いてくれた男性がいた。もちろんライターではないが、文章もうまくて、沖縄には書き手は、普通の人の中にたくさんいるのだなぁと思ったものだ。ある事務所の社長さんだったようだが、ペンネームを使っていたので、本名はまったく忘れていた。電話で原稿の依頼をして、一度だけ原稿を取りにその事務所に伺ったことがある、ということだけは、とてもよく覚えていた。『波打つ心の沖縄そば』のことを思い出す度に、そのシーンがふと蘇るのだ。たいした会話もなく、本当に原稿を受け取った、というだけだったのに。
 とても文章の上手な方だったので、その後もどこかの紙面で見かけるのでは、と思っていたのだが、そういうことはまったくなくて、時は過ぎていった。一度会ったきりの事務所の場所もあやふやになっていた。

 その話しをすると、宮城氏も「ああやっぱりそうですか」と、低い声を一段太く響かせて言った。そうだったのだ。宮城氏も、「もしかしたら……」と思ってはいたのだそうだ。あの時は仕事が忙しくて、ろくに相手もできなくて、と宮城氏。なぜだかあの時の事は覚えているのだそうだ。思わずまた握手をしてしまった。
 あれから二十三年である。あの時、おもしろいと思った感じ方は、全然変わってないのだなぁと妙に納得。この島の風景も状況もだいぶ変わった気もするが、僕はそんなに変わっちゃいないようだ。
 
 このように、二十年なんて意外にあっという間なのである。記憶の中の沖縄そばが少し伸びた程度のもんだ。米軍基地問題もあっけなく過去の問題なればいいのになぁ、とまぁこれは蛇足でしたが……。

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『北木山夜話』の余話
プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/


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Posted by ryuQ編集室 at 2010年05月03日   09:00
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