嘉手川学のryuQ100味[10月号]
10月17日は「沖縄そばの日」。業界の努力で残った沖縄の食文化を考える
夏の暑さを引きずったまま、季節は早くも10月である。とはいっても旧暦で数えると10月1日が旧暦8月21日、10月31日は旧暦9月21日である。沖縄は本土のように「暑さ寒さも彼岸まで」という季節感はなく(今年は全国的にも彼岸を過ぎて暑かったけれど)、秋の彼岸を通り越してもだらだらと暑く、沖縄の夏は旧暦の8月を過ぎても暑い日が続くのである。しかし今年は、大きな台風が3回も沖縄に来たので、周辺の海は結構攪拌され海水温も——確認したわけではないけれど——、例年に比べてそれほど高くなってないと思うので、いつもの年よりは早く、秋が来るかもしれないのである。
そんなわけで、暦の上ではしっかり秋になった今の時期の年中行事といえば、旧暦9月9日(クングヮチクニチ)の菊酒である。菊酒は元々中国から伝来した健康祈願の行事で、お酒に菊の葉を数枚浮かべた「菊酒」を仏壇やヒヌカン(火の神)に供えて、家族の健康と繁栄を祈願した。また、大工や石工、鍛冶屋や左官などは労働に大切な手足に怪我がないよう「ティーフィサヌウニゲー(手足の御願)」をして、菊酒を飲んだという。
一説によれば、気品のある菊の花や葉の高い香りが邪気を払い、病を寄せ付けないといういわれから菊酒が始まったといわれている。
が、しかし、ヒンスームン(貧乏人)だったとはいえ、生粋のナーファンチュ(那覇人)の親父や、ヤーチューヤー(鍼灸師)の家庭で乳母日傘に育ち、戦争がなければ何の苦労もなく大人になっただろう同じくナーファンチュのお袋が、旧9月9日に仏壇に菊酒をウサギテ(供えて)いるのを見たことがない。ボク自身、菊酒を知ったのは大人になってからで、りんけんバンドの照屋林賢さんから教わったのである。だから実をいうと菊酒がどのくらいメジャーな年中行事かわからない。でも、菊酒を知ってからは学校やよその家に生えている菊の葉を2〜3枚ちぎってもち帰り、泡盛に浮かべて飲んだことが何回かある。
ちなみに、ウチでは毎年菊酒をやっているという人がいたら、どんな風にしているのか教えてもらいたいものである。
もう一つ旧暦9月で大きな行事9月7日に行われる、97歳の長寿祝いのカジマヤーである。先月紹介した旧暦8月8日の88歳を祝うトーカチもマギスージ(大きなお祝い)だけど、カジマヤーはさらに盛大に行い、さらにその上を行くいわばギガスージである。ちなみにギガスージとは今思いついた言葉なので、ウチナーグチにはない。マギー(大きい)よりもっともっと大きいのでギガといっただけである。正式にいう(かどうかわからないが)とデージマギスージ(とても大きなお祝い)となる。
その、デージマギスージのカジマヤーは、最高の長寿祝いとして子や孫の子孫、ひ孫をはじめ親戚や知人、友人(同級生はほとんどいないと思うが)を招いて、場所によっては村を上げて盛大に催される、まさに人生一生に一度の大イベントである。ボクの周りではそこまで長生きした人はいないので、カジマヤーを生で祝ったことはないけれど、当事者をオープンカーに乗せ近隣の集落を回り、見た人が長寿にあやかれるようお披露目をする、カジマヤー最大のメインイベントに遭遇したことはある。花や風車にデコレートされてゆっくりと歩く速度で走るオープンカーに乗せられたオバァが手にカジマヤー(風車)をもって、ニコニコしながら嬉しそうに手を振っているのが印象的で、それを見ただけでボクも長生きできそうな気がしたものである。
さて、ここまで書いて食べ物の話が出てないのに気がついた。
本題はこれからである。今年のカジマヤーが行われる旧暦9月7日は新暦の10月17日である。この10月17日はウチナーンチュにとって忘れてはならない記念すべき日である。その記念すべき日とはずばり「沖縄そばの日」である。
沖縄そばの日についてはだいたいの人は知っていると思うが、あえておさらいするとしよう。ボクはそばジョーグ(上戸)で週に一度は沖縄そばを食べている。9月は雑誌の取材で沖縄そばを10日で15軒取材してほとんどの店で完食するほどである。その沖縄そばが今から31年前、この世から抹消されようとしていたのである。
今でこそ沖縄そばが「沖縄そば」の名称で呼ばれているが、沖縄が本土に復帰した4年目の昭和51年、公正取引委員会から「蕎麦粉が30%以上混入していないものをそばと表示してはいけない」といわれ、昔から食されてきた沖縄の「そば」は風前の灯となり、名前のない麺となるところであった。が、しかし、昭和50年に設立された「沖縄県生麺協同組合」は、沖縄の「そば」は戦前より県民に「そば・すば」として親しまれてきた、歴史ある呼び名であり、「そば」の名称の残すよう努力した。東京の公正取引委員会の本庁や全国製麺協同組合連合会の会長に会い、沖縄の食文化を語りやそばの歴史をかたり、雨の日も風の日も雪の日も、通い続けて沖縄そばの名称の存続を訴え続けたのである。
そして、折衝開始から3年目の昭和53年に「全国生めん類公正取引協議会」において、特殊名称「本場 沖縄そば」の登録が認められたのである。沖縄そばの名称が正式に承認され登録された日が10月17日だったことから、平成9年10月17日に「沖縄そばの日」となったのである。
今では一日に15万食以上、まさにウチナーンチュのソウルフードとなった沖縄そば。毎年この日になるとボクは、当時の業界の人たちの苦労を思い、感謝の気持ちを忘れずに沖縄そば屋の食べ歩く、巡礼の旅に出るのであった。
筆者プロフィール:嘉手川 学(かでかわまなぶ)
フリーライター、沖縄県那覇市生まれ。沖縄のタウン誌の草分け『月刊おきなわJOHO』の創刊メンバーとして参画。沖縄ネタならなんでもOKで特に食べ物関係に強い。現在も『月刊おきなわJOHO』で食べ物コーナーを15年以上掲載中。
著書、編著、共著に『沖縄大衆食堂』、『笑う沖縄ごはん』、『泡盛『通』飲読本』(各双葉社)など多数ある。今年になって共著で3月に『沖縄離島のナ・ン・ダ』(双葉文庫)と『もっと好きになっちゃった沖縄』(双葉社)、5月には『沖縄食堂』(生活情報センター)が発売。
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