嗚呼、恐るべし沖縄本コレクター『沖縄本礼賛』平山鉄太郎
この何かと世知辛い浮き世に、コレクターなる種族がいる。〈何か〉を集めずにはいられない人たち。膨大な時間と資産(…あればね)をなげうって、ある人は瓶のフタをあつめたり、またある人は靴の後ろに挟まった小石を集めたり、はたまたある人はトイレットペーパーの切れ端を集めたりと…。いや、例えが悪かったが、美術品とか世間的にも価値があると認められたジャンルで蒐集なさる人たちも含めても、〈何か〉を集めることに情熱を燃やす心性においては平等なコレクターたち。僕はその〈何か〉、サムシング・エルスに欠けているので、彼らの社会的な、そして家庭的な立場に完全に思いを馳せることはできないが、ここに一人、いや一冊、コレクター本をご紹介したい。タイトルは、『沖縄本礼賛』、蒐集した人、いや著者は、平山鉄太郎氏である。書名は「おきなわぼん らいさん」と読みます。
■「沖縄本」の微細な魅力とは
そう、この本で収集されているのは、「沖縄本」である。著者は、2001年に沖縄を初めて訪れて以来、沖縄の魅力に取り付かれた。それはまぁよくある「沖縄フリーク」「沖縄ファン」の話。だが、彼は、「日本には『ニッポンニアニッポン』という名前の鳥がいる」ように、「沖縄には『おきなわぼん』という名前の本がある」(※1)ことを、ある沖縄古書店での衝撃的な体験によって知る。そして幸せなことに「沖縄が好きで、本がもっと好きな」著者は、その後ひたすら「沖縄本」を集める日々を過ごすことになる。そんな「沖縄本」の微細な魅力と、そこまでやるのね、うんうんと御万人を納得される収集にまつわるマニアックなエピソードをまとめたのがこの本なのだ。ちなみであるが、「ボーダー新書」というシリーズの最新刊である。
■危険な、幅広い定義
「沖縄本」とは、著者によれば、
1 沖縄に関して書かれた本や雑誌
2 ページ数は少なくても沖縄について書かれた文章が収められていて、
「これは沖縄本」と私が決めた本や雑誌
である。この定義の怪しくも危険な香りを少しでも感じる事ができる貴方なら、すでにもうこの本の読者とよんでいいだろう。この都合のいい定義に従えば、どれだけ膨大な数の本がターゲットになるか、想像できますか。沖縄学の祖・伊波普猷の全集から、『ああ! オリオンビール —社員に酸素を吸わせなかった勇将の悲劇』まで、詩・新川明、版画・儀間比呂志『詩と版画 おきなわ』から、プロフィールに「高名なユタを祖母に持つ」島袋千鶴子さんの『開運! お茶碗5円玉 —玄関に置くだけで幸せを呼ぶ琉球風水の知恵』まで、このスパンの目配り、目利き、目移りで、本を日々集めなければ気が済まなくなるのです。
■最も危険な「沖縄本本」
今挙げた本は、本書に出てくる沖縄本のごく一部であり、シーサーの一角に過ぎない。著者は、この書き下ろし新書において、「蒐集家、如何に沖縄本を集めたり!」と自慢しているのではない。その根本にあるのは、いっちゃーなんだが、「肝心・ちむぐくる」である。共通語では「愛」と言うしかないのが残念だが、沖縄という運命と出会った幸せを、「沖縄本」をひたすら買い集め(たまにもらったりしているが)ることで、沖縄への恩返しを果たしているのだ……。
そのようなことを、うひょひょひょと本書で述べている平山氏でさえ、〈この世で最も危険な書物〉と、間違ってシマの聖域・御嶽に足を踏み入れてしまった文化人類学者のように、恐れ敬う沖縄本がある。それが「沖縄本本」である。
「おきなわ・ぼんぼん」という著者独自の造語である。やたら「沖縄本」を紹介している本たちである。なぜ著者が恐れるかというと、その本を開いてしまえば紹介されている他の沖縄本を集めたくなってしまうからである。参考文献を積極的に紹介し、書誌データが特化されている沖縄本も、「沖縄本本」となる。
そのひとつ、〈私が最も危険だと思っている沖縄本本〉が、三木健著『八重山を読む —島々の本の事典』である。何が危険かって…。それは『沖縄本礼賛』を手にとっていただいてからのお話である。新刊ですぞ。
そして今この瞬間にも、平山鉄太郎氏のもとには、沖縄本の、古書に新刊、稀書に奇書が届けられているのでした。
※1=これは、何かの引用に見えますが、『沖縄本礼賛』の編集担当であるワタクシの戯言であります。
●新城和博の『ryuQ100冊』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html
プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/
今挙げた本は、本書に出てくる沖縄本のごく一部であり、シーサーの一角に過ぎない。著者は、この書き下ろし新書において、「蒐集家、如何に沖縄本を集めたり!」と自慢しているのではない。その根本にあるのは、いっちゃーなんだが、「肝心・ちむぐくる」である。共通語では「愛」と言うしかないのが残念だが、沖縄という運命と出会った幸せを、「沖縄本」をひたすら買い集め(たまにもらったりしているが)ることで、沖縄への恩返しを果たしているのだ……。
そのようなことを、うひょひょひょと本書で述べている平山氏でさえ、〈この世で最も危険な書物〉と、間違ってシマの聖域・御嶽に足を踏み入れてしまった文化人類学者のように、恐れ敬う沖縄本がある。それが「沖縄本本」である。
「おきなわ・ぼんぼん」という著者独自の造語である。やたら「沖縄本」を紹介している本たちである。なぜ著者が恐れるかというと、その本を開いてしまえば紹介されている他の沖縄本を集めたくなってしまうからである。参考文献を積極的に紹介し、書誌データが特化されている沖縄本も、「沖縄本本」となる。
そのひとつ、〈私が最も危険だと思っている沖縄本本〉が、三木健著『八重山を読む —島々の本の事典』である。何が危険かって…。それは『沖縄本礼賛』を手にとっていただいてからのお話である。新刊ですぞ。
そして今この瞬間にも、平山鉄太郎氏のもとには、沖縄本の、古書に新刊、稀書に奇書が届けられているのでした。
※1=これは、何かの引用に見えますが、『沖縄本礼賛』の編集担当であるワタクシの戯言であります。
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http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html
プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
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