「沖縄のラジオの本、いまむかし」(新城和博)

何度かコラムで書いたことがあるが、僕が沖縄の出版に携わってやりたかったことのひとつは、ラジオの本を出すことだった。その昔、TBSラジオの深夜番組「パック・イン・ミュージック」でリスナーからの手紙をまとめた本「もうひとつの別の広場」というシリーズがあって、コツコツ買いそろえていた学生時代を過ごした僕にとって、そのスタイルのラジオ本はあこがれであった。その夢が叶ったのは、1991年に編集した、多喜ひろみ・FM沖縄編の『ハッピーアイランドの本』(ボーダーインク刊)である。

ラジオのリクエスト・お便りが、葉書、電話からFAXへと移行する頃で、お昼の番組である「ハッピーアイランド」はいちはやくFAXによるお便りを受け付けた番組だった。FM沖縄アナウンサーの多喜ひろみさんの柔らかな声で紹介されるリスナーからのお便りの内容は実に様々で、きわめて沖縄っぽくて、でもどこか洒落たセンスもあって、一冊の本としてまとめたら、絶対おもしろいはずだと確信していた。帯の文句はこうだ。
〈ビーチパーティ好きなOLの方に 夢のような恋に悩むおじさんの方に もあいの翌日の会社員の方に 昼間ひとりぼっちの従業員の方に 遠く沖縄から離れた友人の方に 毎日キラキラしている主婦の方に〉
沖縄の人は手紙を書かない、文章ベタだなんていわれていたのだが、ことラジオのお便りに限っていえば、大変筆まめなのである。FAXという通信方法も沖縄の人に合っていたかもしれない。おばぁ・おじぃネタ、イーバッペー(言い間違い)ネタ、方言ネタ、恋人・夫婦ネタ、そして子どもネタと、その後、「沖縄はおもしろい」的な本がたくさん出たのだが、そのルーツ本のひとつではないだろうかと、個人的には思っている。結局、「ハッピーアイランドの本」は、1万部に達するベスセラーになり、3、4年ごとにまとめるシリーズとなった。
あれから月日は流れて、2008年の今年8月、『ハッピーアイランドの本8』を出版した。番組は、その後、沖縄県内の聴取率ナンバー1をずっとキープし続けている。多喜さんの癒しトークもそのまま。しかし、寄せられるお便りのほとんどは、Eメールとなり、FAX、葉書で寄せられるものはごくわずかになった。ローカルのラジオ番組の本がこんな長期にわたって刊行されるているのは大変珍しいだろう。帯の文句はこんな感じ。
〈シルバーエイジからベビーまで幸せ広がる第八弾〉
そう、この年月の間にリスナーは三世代にわたるようになったのだ。銀色のジャケットを眺めている僕も、しっかりと老眼が入っているのであった。
【しーぶん(おまけ)】
ハッピーの本以外にも、沖縄のラジオ番組関係の本はいろいろ出ているのだが、ボーダーインク関係でいうと、ラジオ沖縄「前田すえこのいいことありそうウィークエンド」沖縄探検隊編『笑う!うちなーぐちFAX小全1〜3』(これは僕が出演していた番組だ)、FM沖縄・川満聡/津波信一編』『川満児童文学館』(朗読CD付)などがある。いずれもリスナーの投稿を元にした本である。

書きながら思いだしたのだが、そういえば僕が最初に関わったラジオの本は、1988年当時務めていた沖縄出版から出た、琉球放送「なつメロ沖縄50年」傑作集『気ままなゆんたくいまむかし』であった。ベテラン・アナウンサー仲地昌京さんの番組で、タイトル通り、なつメロを掛けつつ、いろんな話をユンタクするのだが、その語りが落語口調のしゃべりとうちなーぐちがまざった独特の味わいで、実に面白かった。実はその番組はしっかりとした台本があって、そのスクリプトをずっと書いていたのが、当時シナリオライターだった外間朝貴さんだった。外間さんは大正生まれで、戦前・戦後とヤマトと沖縄で様々な職業を経て放送業界に入ったベテランで、アナウンサーの語りを想定して、その口調で台本を書くという、一種の名人芸の原稿である。手書きの原稿は文字がものすごくクセがあったが、仲地昌京さんだけがスラスラと読めるのであった。
その本の出版祝賀会で、挨拶を求められた外間朝貴さんは、「ちらあふぁーさん」と答えて、挨拶をやんわり辞退した。シナリオライターは黒子に徹すべしという気持ちだったのだろう。「ちらあふぁーさん」とは、気恥ずかしいと訳すべきか、いやもっとなんとも言えないうちなーぐちならでのニュアンスが漂っているのである。
●新城和博の『ryuQ100冊』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html

プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/
ハッピーの本以外にも、沖縄のラジオ番組関係の本はいろいろ出ているのだが、ボーダーインク関係でいうと、ラジオ沖縄「前田すえこのいいことありそうウィークエンド」沖縄探検隊編『笑う!うちなーぐちFAX小全1〜3』(これは僕が出演していた番組だ)、FM沖縄・川満聡/津波信一編』『川満児童文学館』(朗読CD付)などがある。いずれもリスナーの投稿を元にした本である。

書きながら思いだしたのだが、そういえば僕が最初に関わったラジオの本は、1988年当時務めていた沖縄出版から出た、琉球放送「なつメロ沖縄50年」傑作集『気ままなゆんたくいまむかし』であった。ベテラン・アナウンサー仲地昌京さんの番組で、タイトル通り、なつメロを掛けつつ、いろんな話をユンタクするのだが、その語りが落語口調のしゃべりとうちなーぐちがまざった独特の味わいで、実に面白かった。実はその番組はしっかりとした台本があって、そのスクリプトをずっと書いていたのが、当時シナリオライターだった外間朝貴さんだった。外間さんは大正生まれで、戦前・戦後とヤマトと沖縄で様々な職業を経て放送業界に入ったベテランで、アナウンサーの語りを想定して、その口調で台本を書くという、一種の名人芸の原稿である。手書きの原稿は文字がものすごくクセがあったが、仲地昌京さんだけがスラスラと読めるのであった。
その本の出版祝賀会で、挨拶を求められた外間朝貴さんは、「ちらあふぁーさん」と答えて、挨拶をやんわり辞退した。シナリオライターは黒子に徹すべしという気持ちだったのだろう。「ちらあふぁーさん」とは、気恥ずかしいと訳すべきか、いやもっとなんとも言えないうちなーぐちならでのニュアンスが漂っているのである。
●新城和博の『ryuQ100冊』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html

プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
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この記事へのコメント
新城さん、ハッピーの本8出版おめでとうございます。
そして、お疲れ様でした。
昔はおそろしいくらいの紙の山に埋もれての作業、
今はもしかしてPCとにらめっこの作業で、
やっとやっと1冊の本に仕上がるんですよね。
でも、リスナーズナイトでの皆さんの笑顔を見ると、
その苦労も報われますね。
私も1~8まで、リスナーとして、スタッフとして、卒業生として、
すべてに関わることが出来て、光栄です。
ありがとうございました!!
そして、お疲れ様でした。
昔はおそろしいくらいの紙の山に埋もれての作業、
今はもしかしてPCとにらめっこの作業で、
やっとやっと1冊の本に仕上がるんですよね。
でも、リスナーズナイトでの皆さんの笑顔を見ると、
その苦労も報われますね。
私も1~8まで、リスナーとして、スタッフとして、卒業生として、
すべてに関わることが出来て、光栄です。
ありがとうございました!!
Posted by すみれ at 2008年08月06日 01:21
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