ryuQ100冊・12月号「沖縄のうねりの中で」

気が付けば、今年ももう今月でおしまいだ。過ぎてしまえば早かったと思うのは毎年のことではあるが、振り返ってみて、沖縄で今年一番の話題といえば、「教科書検定問題」だろう。
高校の教科書で沖縄戦に関する記述に検定意見が付いて、「沖縄戦で起こった沖縄県民の集団自決に日本軍が関与していた」という記述を削除・修正を、文部科学省が各教科書出版社に求めたのが三月のこと。その後、県内の各平和運動団体や女性団体などが中心なり、検定意見撤回を求める動きが起こり、六月には沖縄県議会が全会一致で、二度にわたる検定意見撤回決議を文科省に提出するという事態となった。県下ほとんどの市町村議会も同様の決議を行った。しかし文科省や政府は、沖縄のこうした動きに誠意のある対応を見せなかった。沖縄のマスコミは各社この問題を大きく扱い、また「沖縄戦・集団自決」とは何か、もう一度深く掘り下げる報道、キャンペーンが展開された。
こうした流れの中、九月二十九日に行われたのが「教科書検定意見撤回を求める県民大会」で、会場となった宜野湾コンベンションセンターの広場には、あの1995年の米軍人による少女暴行事件を端に発した、「10.21」の県民抗議集会を上回る人数が集まった。戦後最大規模の県民運動といえるだろう。
その九月二十九日は、偶然にも「第九回沖縄県産本フェア」の初日でもあった。僕は、午前中は〈いち県産本編集者〉として、会場のリウボウブックセンター・リブロに顔を出し、午後からは〈いち県民〉として、家族三人で県民大会に参加した。
それから十日後、県産本フェアのイベントである「県内アナウンサーによる県産本朗読会」が、リウボウ・ホールで行われた。僕はスタッフとして朝から会場でパタパタしていたのだが、ふと見ると、フェア会場の棚には新しい本がどさっと置かれていた。ちらっと見ると、「県民集会」とかたくさん集まっている人々の航空写真が表紙を飾っている。この時期だから、1995年の県民集会の本を持って来たのかなと思ったら、いやいや今回の教科書検定問題の県民集会の写真集ではないか! その本の名は、写真集『沖縄のうねり 集団自決「軍命」削除の教科書検定抗議』、琉球新報社の発行だった。
まだ十日しかたってないのに、もう本が出来ているというのに、まずびっくりした。新聞社とはいえ、これぞまさしく緊急出版である。のんびり出版がほとんどの沖縄県産本版元とは思えない。こんなに素早く出たのは記録じゃないかな。

県民大会の写真をメインにしつつ、これまで紙面で展開してきた「教科書検定問題」や「沖縄戦・集団自決」に関する記事、資料も揃えて、それなりの作りになっている。何より臨場感がある。集会に参加した僕もとりあえず自分たち家族が写っているかしらと探したりして……11万人ほどの御万人(うまんちゅ)の中で、シュプレヒコールした僕の腕だけ写っていた。
この『沖縄のうねり』はその後面白い展開を見せた。沖縄県内では、予想通りそこそこ売れていったのだが、それ以上に県外の読者から反応が大きかったのだ。琉球新報社には、県外からの問い合わせが殺到して、本の発送作業がパニックになったとか。また大会後の国会で、ある議員が『沖縄のうねり』を片手に政府に質問をしたところが、テレビ中継で全国に流されて、さっそく「今、テレビに出ていたあの本を送ってくれ」と、またまた反響があったそうだ。まとめて何冊も買う読者が多いのも特徴らしい。戦後六十年の時に『沖縄戦新聞』という、これもまた沖縄戦に関する長期連載企画を出版して大ヒットした琉球新報社らしい一冊といえようか。

ここからは個人的な話。
もう一方の新聞社の友達で、これまた沖縄戦の取材をしている記者の方から、メールをもらった。今、僕の父親の島の取材をしているけれど、その話の中で僕の父親の話がよく出てきたと。
僕の父はもう二十年以上も前に亡くなっているのだが、沖縄戦における集団自決が最初に起こった島の出身で、当時中学生だった父は、まさに当事者、生き残った者だった。その頃の話は生前、父からはほとんど聞かなかった。ここ数年、妙にそのことが気になっていた。当時中学生だった父は、どういう思いを秘めていたのだろうかと。もう亡くなっているので、想像するしかない。
その記者の方のメールには「お父さんの写真が、沖縄戦の写真集に載っているらしいよ」とあった。それは知らなかった。なんでも本に掲載されていたのは、米軍が当時撮った膨大な量の沖縄戦に関する写真のひとつで、キャプションが違う島の名前で付けられていたのだ。なるほど、知らないはすだ。
その写真集は『写真記録 これが沖縄戦だ』(大田昌秀編著、琉球新報社)。初版が1977年で、沖縄戦に関する写真集が初めて発売されたということもあり、発売と同時に大反響を呼び、以来増刷・改訂を重ねて、累計20万部を越える大ベストセラーとなっている。
その中の一枚、捕虜になるために山から投降する島のお年寄りたちを支えている、当時中学生だった父親の姿が、そこにあった。ああ、なんとなく面影があるような……。その写真を眺めて、またいろいろ想像してみる。集団自決を目の当たりにした少年の心情を……。
実は、この写真、偶然にも『沖縄のうねり』の中にも、大きく掲載されていたのである。これまた違う人に指摘されて、びっくりした。
沖縄戦に関するジャンルは、沖縄県産本の大きな特徴で、写真集は県内外で読まれている。その膨大な写真の中の一枚に、僕の父親がいる。こんな風に、沖縄戦の記憶はいろんな流れを経て、個人の心の中に溜まり、そして世代を超えて流れていくのだろう……な。(文・新城和博)
●新城和博の『ryuQ100冊』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html

プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/
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