6月23日は慰霊の日。夕方6時より浦添てだこホールで開催の
「6.23地球の心・平和の祈りピアノコンサート」に出演される即興演奏家・WONG WING TSAN(ウォン・ウィン・ツァン)さんに、本番直前インタビュー。
これまで沖縄では10年ほど前から何度かコンサートを行ってきたというウォンさんも、6月23日の慰霊の日に「祈りのコンサート」を行うのは初めての体験になるといいます。
数日前に沖縄入りし、戦跡や聖地を巡礼して廻ったというウォンさん。当日の舞台だけが本番ではなく、その何日も前から、演奏に向けての大切な準備が始まっているのだといいます。
そして本番当日はそこに集まった皆さんたちとの想いを重ねて音を紡ぐのだと語るWONG WING TSAN。慰霊の日特別インタビューとなりました。
——6月23日にコンサートをされることについて、お気持ちを聞かせて頂けたらと思います。
ウォン:自分の音楽活動の中に、とくに反戦的なものを取り入れてやっている訳でもないのですが、現在進行形として、今も世界中に紛争があり、多くの方々が亡くなっておられる。イラクのことアフガンのこと、アフリカで起こっていること、ニュースなどの情報によって常に戦時中の中に生きていて、人事には思えない。
この国も、64年前には大きな戦争があった訳です。とりわけ、広島と長崎と、そして沖縄というのは大きな意味を持っています。でも、戦後生まれの僕たちは、当時どういう事が起きたのかというのを現実的に直接知ることはできない。
ですから、私は6月23日のコンサート本番だけでなく、数日前から沖縄入りして、戦跡やウタキ(聖地)を巡るだけでなく、その当時生きていた人々とも出会うことによって、自分がどこまで再体験できるのか。
私は音楽家として“聞く”という作業があるのだけど、それが音楽家にとって一番大事な作業でもあるので、この場(沖縄)にいて、ただ音楽を奏でるだけでなく、そこからのメッセージをどこまで受け止める事ができるか。それが自分に課せられた“WORK”=人生の仕事としてそれをやってみたいという覚悟を持って、今回はこのコンサートに向き合っていきたいとそう思っていますね。
——声を聞くというのは、声なき声も聞き、向き合っていくということですね?
ウォン:はい。音だけでなく、メッセージだけでなく、そこに聞こえてくるすべてのものを聞く、感じ取る、受けとめてみるという意味です。
そこでは、何も判断しない、ジャッジメントしない。ただひたすら受け止める、聞き止めてみたいと。
その作業のため、数日前から沖縄に入りました。
——ウォンさんの音楽活動とも密接にある“WORK”というキーワードについてもう少し伺いたいのですが。
ウォン:僕という人間が、自分の人生の中で生き抜いていくプロセスの中に、その都度、出会わなければならない、もしくは向き合わなければならないひとつとして“沖縄”があるんだと思うんですね。
遡れば、つい数日前からの出来事ではなく、このコンサートの実行委員長である高江洲朝男さんたちに出会った何年も前の時点から、この“WORK”がはじまっているのだと思っています。
——ここで、ウォンさんを知るためにも“瞑想のピアニスト”と称されていることについてなど、
今日、ウォンさんのコンサートに初めて来られるお客さんもいらっしゃると思うので、ぜひお聞かせください。
ウォン:19歳の時にプロとしてデビューして、コンサート活動をやったり、スタジオワークをやったり、音楽に携わる様々な活動をやってきたのですが、37〜38歳の時に迷いの時期があり行き詰まってしまいました。その時に出会ったのが瞑想でした。インド系の瞑想で、その瞑想をはじめた時に、様々な気づきや体験があり、音楽を通して自分は何をやろうとしているのかが、確信できました。
それから不思議なことに、いろんな流れが自然に出来てきて、僕自身が演奏することがどういう事なのか判ってきました。そしていろんな人からのサポートを得ることができて、例えば、今回のような『地球の心・祈りの祈り』をテーマにしているものを僕が受け止めて、それを音にしていくというプロセスを行ってきました。
同時にそれは、実際的にどういうものなのかというと、僕がピアノの前に座って演奏するという行為が一体何かということを、あえて言うならば“祈り”という言葉と結びついていくものがあるんですね。それが身体の中から湧き出るように、自分のリアリティーとして、ひとつの音を紡いでいくことなんです。
それらが、瞑想体験から得られるものもあるので、それで“瞑想のピアニスト”と言われることもあるのだと思うのです。
——そして“即興演奏家”について。
自分も無心になって写真を撮ったり、精神を集中して文章を書いたりする時に、突然スイッチが入るように“何か”に突き動かされることがよくあるのですが。
ウォン:表現活動をされている方ならば、自分の意志ではなくて、もっと何か違うものに動かされているような、そういう体験を経験された方もいらっしゃるのではと思っているんです。
とりわけ、何かを一生懸命に無心でやっている時、そういう時は自分自身を手放して、本当に自動的に出来ることに身を委ねて作業していく。僕の演奏の場合、とくにそういうのが強くありますね。
これは誰もが一度は経験されているのではと思うので、僕だけが特別な事をやっているとは思ってはいないのですが。
ですが、ピアノの前に座って、ある2時間というコンサートの枠の時間内でそれをやっていかなければならないので、それなりの修練なり、訓練なりをやっていき、精神力なり、存在力といわれるような、ある力が当然必要になってきます。それらが動くための力になっているのが瞑想であったりします。
——なるほど。6.23のコンサートについて「どういうコンサートになるのかは、身をゆだねて、ピアノの前に座っていたい」と語られたウォンさんの言葉の意味につながっている訳ですね。
ウォン:僕という音楽家がやっていることは、ピアノの前に座った時に、ここで出逢った人たちであったり、直前までに遭遇した出来事であったり、その場所に居た時の、何か目に見えない大きな力だったり、ここに集まったオーディエンスの皆さんの想いだったり。そういう出来事が、僕を通して音になるんです。
僕はひとつの媒体に過ぎないんじゃないか。みんなが一つになる瞬間を体現できればいいかなと思うんですけど、いかにみなさんにとって透明な媒体でいるか。それが自分に与えられたWORK(仕事)だと思っています。
——当日のウォンさんのステージが楽しみですね。
ウォン:もちろん、NHKで使用された『家族の肖像』をはじめドキュメンタリー番組のテーマ曲など、みなさんが聞き覚えのあるオリジナル曲も演奏しようと思っていますので、どうなるかは本番を楽しみにしていてください。
——そして、コンサート当日を迎えて、みなさんにメッセージをお願いします。
ウォン:6月23日には私だけではなく、沖縄の神人さんや地元の太鼓団体のみなさんが集まり、『地球の心・平和の祈り』というコンサートを行います。
これだけの人が集まって、宗派を超えて平和の祈りのコンサートをやるという事は、なかなか出来ない事ではと思っています。
沖縄は特別な島。世界に平和を発信していく島として、大きな意味を感じています。
ぜひみなさんに聴きに来て頂けたらと思います。心よりお待ち申し上げます。
『地球の心・平和の祈り ピアノコンサート』
日時:2010年
6月23日(慰霊の日)
17:30開場/18:00開演
場所:浦添市てだこホール(大ホール)
料金:3000円(当日券+500円)
問い合わせ:風の里 TEL:098-947-1187
(文+写真: 桑村ヒロシ、取材協力: 地球の心・平和の祈りピアノコンサート実行委員会、2010年6月更新)