アセロラでビタミン補給しよう(by.嘉手川学)
5月である。例年ならゴールデンウィークが終わると同時に沖縄県地方は梅雨入りとなるはずなんだけど、今年は梅雨どころか普通に降る雨さえ極端に少ない。
この原稿を書いている日は、台風崩れの熱帯低気圧の影響でお湿り程度の雨が降っているが、いまだに梅雨前線が発生する気配がなかった。今年に入ってまとまった雨が降ってないのでダムの貯水率はとうとう50%を切ってしまい、このまま行けば夏になる前に水不足になり沖縄本島は給水制限がなされてしまいそうだ。それでも雨が降らなければ夜間断水、さらに悪化すれば確実断水になってしまうので、このあたりで行政は本腰を入れて雨乞いをやってもらいたい。
雨乞いといえば、沖縄では復帰前から復帰後もしばらく、空梅雨の年だと「断水」が夏の風物詩のようなものだった。当時は米軍が人工降雨を試みたり、「為政者は雨乞いをするべきだ」と真面目に唱える人もいた。復帰して何年かしたころ、沖縄本島で断水が続いていた年だったと思うが、「与儀公園」で宮古出身の有志が宮古に伝わる「雨乞いクイチャー」で雨を降らそうと企画し、「○月○日○時より与儀後年で雨乞いクイチャーを行います」と県内の宮古出身者にクイチャーの参加を呼びかけていた。ところが当日はあいにく雨で、「クイチャー」の始まる午後から大雨の予報が出た。ボクはこの日たまたま車の中でラジオを聴いていたら、ラジオから「本日、与儀公園で予定されていた雨乞いクイチャー大会は雨で中止になりました」と放送していたのである。「雨乞いクイチャーが雨で中止」、「ん!?、雨乞いが雨で中止!!」。しばらく考えて「そりゃ、そうだよなぁ」と車の中で一人納得したのであった。
この話しを周りにしても誰も信じてくれないけれど、これはホントにあった話なので、誰かボク以外にこの話を知っている人がいたら証明してもらいたいんだけど…。
そうそう、それから、沖縄では台風は農作物や建物が被害を受けることもあるけれど、恵みの雨をもたらすから空梅雨の年は台風を心待ちにする人も少なくない。
ま、断水や台風の話しはこれくらいにして、本題である。
今回、紹介したい沖縄の食べ物はアセロラ。正式には「アセローラ」と書くんだけど、通称として「アセロラ」が知れわたっているのでアセロラにするね。アセロラはカリブ海周辺の西インド諸島が原産といわれており、ブラジルが世界最大の産地でハワイやグアム、ベトナムなどで栽培され、日本では沖縄県と鹿児島県で栽培されている。
沖縄県には導入栽培されたのは1958年。実が傷つきやすいことと、収穫して2〜3日しか日持ちがしないことから、栽培果実として浸透しなかったけれど、ほっといていても自然なままで結実することがわかったことから、庭木や観賞用植物として植える人が多くいた。で、沖縄でアセロラが有力な栽培果実のなったのは近年のこと。ビタミンCの含有量が多いため、ジュースやお菓子、化粧品、健康食品など多くの利用価値があることと、冷凍技術の発達と輸送コストの問題をクリアにすることで本格的な栽培を開始したのである。降雨量が少なく安定した気温、水はけのいい土地がアセロラ栽培に適していることから傾斜地の多い本部町に白羽の矢がたち試行錯誤の末、本部町に適した栽培方法が見つかり本格的栽培が始まり、今ではアセロラが本部町の代名詞になっているほどだ。
ところで、5月12日は何の日か知っている?那覇に住んでいるとピンとこないけど、本部町では今から10年前の1999年5月12日に「
アセローラの日」を制定して、この日にはアセロラのゼリーや果実を学校給食で配っている。なぜ5月12日かというと、アセロラの出荷の開始がこの時期だからである。実はボク、10年前に「アセローラの日」制定の前後、本部町に通い詰め「アセローラの日」の決定的瞬間をレポートにまとめて本土の広告代理店に送った。その代理店から全国のマスコミに「アセローラの日」制定のニュースリリースを流していたのである。だから今でも本部町に行ってアセロラが豊作だったり、アセロラ製品がたくさん並んでいるのを見ると、我がことのように嬉しくなるの。当時、本部に取材のたびアセロラの実を食べていたから、今でもこの時期になるとアセロラが食べたくなる。
酸味と甘みのバランスがよく、暑い日のは好みを2〜3個食べるだけで元気になるような気がする。で、そのアセロラ、食べたくなったらボクはどうするか?「本部まで買いに行く?」「ノー!!」である。「じゃあ、マチグヮーまで買いに行く?」「ノー!!」である。「じゃあ、スーパーで買う?」。「どれこもれもノーである」。確かに本部町では栽培されて商売としても成功しているけど、その前に観賞用や庭木として買った人が本部町以外にたくさんいるのである。アセロラは5月から10月まで実が付くと毎日採っても採っても次から次へと実がなり、ボタボタと地面に落ちてしまい、持ち主はけっこうアセロラの実をもてましているのである。そこでボクは家を覚え、その前を通りながらさりげなく2〜3個とって(窃盗かな)、その実を食べるのである。もちろん木の持ち主がいた場合は「アセロラいっぱい実がなってますね」といいながら、ちゃんとお願いして数個貰って食べているのである。また、とある公園には桜の木と並んでアセロラの木が生えており、そこは誰の許可を得なくていいと思うので(確認はしていないけど)、息子と二人で自由に実を取って食べているのである。
アセロラは買って食べるのではなく、何気なく採って食べるものである(やっぱり窃盗かな?)。
●嘉手川 学の『ryuQ100味』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73393.html
筆者プロフィール:嘉手川 学(かでかわまなぶ)
フリーライター、沖縄県那覇市生まれ。沖縄のタウン誌の草分け『月刊おきなわJOHO』の創刊メンバーとして参画。沖縄ネタならなんでもOKで特に食べ物関係に強い。現在も『月刊おきなわJOHO』で食べ物コーナーを15年以上掲載中。
著書、編著、共著に『沖縄大衆食堂』、『笑う沖縄ごはん』、『泡盛『通』飲読本』(各双葉社)など多数ある。共著で『沖縄離島のナ・ン・ダ』(双葉文庫)と『もっと好きになっちゃった沖縄』(双葉社)、『沖縄食堂』(生活情報センター)が発売中。
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