沖縄食堂メニューのレッドデータブックに記載されそうな、おかず

ryuQ編集室

2010年09月20日 09:00


 暑くて熱くて長~い夏も9月になってちょっとずつではあるが、秋の気配を漂わせている。朝晩というか、夜はそれほどでもないけれど、明け方から陽射しが強くなる朝7時ごろまでは、風に少しだけ冷気が感じられるようになり、秋の匂いというか、様子が耳掻きの先ぐらいは感じられるようになった。しかも、最近、仕事で沖縄本島の北から南まであっちこっちの店で沖縄そばを食べ歩いているのだが、やんばる方面へ行ったとき、夕方になると「オオシマゼミ」が鳴いていた。「オオシマゼミ」とは大学の授業の一環ではなく、セミの一種である。「オオシマゼミ」が鳴いていると秋の始まりだといわれている。8月下旬から11月にかけて鳴いているのだが、主に9月から10月にかけて朝夕が涼しくなった頃に鳴きので「オオシマゼミ」の気を聞くと秋になったのだと思うのである。

食堂の不思議メニュー「おかず」

 で、今回、秋の話でも「オオシマゼミ」の話でもない。実はこの「オオシマゼミ」はやんばるにはたくさん生息しているけど(中南部には皆無だけど)、一応、レッドデータブックに記載されている。
 というわけでやっと本題に入るけど、レッドデータブックといえば、ボクが愛してやまない食堂にもだんだんと生息域を減らしている昔からのメニューがある。それが、今回紹介する「おかず」である。間違いではないからね、メニューの名前「おかず」なのである。ま、ボクがこれまでにこのコーナーで紹介した「黄色いカレー」や「すきやき」も食堂のメニューから消えていっているけど、これはメニューから消えるのではなくそのメニューを置いている食堂が減っていっていることに起因していることが多い。しかし、「おかず」というメニューはお店の人の考えや2代目、3代目の店主が「おかず」という前近代的なメニューをあえてはずすようになったことが大きな要因である。

果たして「おかず」とは何ぞや

 では、「おかず」とはいったいどんなメニューか。通常、「おかず」とは辞書によると「主食のご飯を食べる際のつけあわせととして料理。食事の際の副食物」と書かれている。なので、和食では「おかず」という名の料理はない。もちろん洋食にも中華にもない。沖縄料理の中でも食堂メニューの中にしかないのである。実は沖縄の人もこの「おかず」というメニューを知らない若い人が多い。特に那覇方面では知らない人の数は顕著である。それはなぜかはあとで説明するけど、この「おかず」には明確な料理指針やコンセプトがなく、ほとんどがお店の裁量によって決まる料理なのでその内容は店ごとに変わる。ほとんどは野菜炒め系が主流で、イリチー (炒め煮)系やンブシー(炒め蒸煮)系はごく少数派だがかつてはあった。もちろん、ご飯のおかずになる料理なら、店の人の意思で決まるので何にでも「おかず」と付けられるのである…
危うい立場を漂ってきたメニュー

 そんなわけで、「おかず」とメニューはほとんどの食堂で野菜炒め系を指していたこともあり、野菜チャンプルーとの違いがあまり見出せず、食堂のメニューとして登場したときから存在そのものが危うい立場にいたわけである。ただ、中には「ニンジンシリシリー」や「煮付け」で勝負という食堂もあったが、いかんせん、野菜炒め系の「おかず」は時代の趨勢というか、ニーズの低下に歯止めがかからず、「おかず」というコンセプトの弱さから多くの食堂が「おかず」という名前をメニューからはずし、野菜炒めや野菜チャンプルーに名称変更して絶滅の危機へと陥っていったのである。とはいえ、消滅の速度は那覇や南部では圧倒的な速さで消えていったけれど、沖縄本島中部にはまだまだ「おかず」を掲げる食堂がいくつも残っている。そのため、那覇や南部の30代半ばよりしたの人は「おかず」の存在を知らないのである。

那覇でも形を変えた「おかず」が存在

 とはいえ、那覇でも「おかず」は形を変えて存在している。那覇市若狭にあるボクの好きな「高良食堂」には「肉おかず」や「牛肉おかず」、「中身おかず」や「野菜おかず」というメニューがあり、多くの人が「おかず」系列のメニューを頼んでいる。また、「やんばる食堂」には「ナスおかず」があり、「あやぐ食堂」には「コンビーフのおかず」や「ポークのおかず」などがある。もちろん「おかず」文化を色濃く残す中部には、沖縄市の「ハイウェイドライブイン」や「グランド食堂」、「ミッキー」、「アワセそば」、宜野湾市の「三角食堂」、金武の「ぎんばる食堂」ほかにもたくさんの店がメニューに今でもちゃんと「おかず」をのせている。

 那覇では絶滅しつつあるメニューだけど、「おかず」という響きに郷愁を覚えるオヂさんたちは、今でも無償に「おかず」が食べたくなるときがある。だから、ある意味いとおしいメニューともいえるので、これからも食堂のメニューとしていつまでも残ってほしいと思うのであった。


嘉手川学の『ryuQ100味』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73393.html


筆者プロフィール:嘉手川 学(かでかわまなぶ)
フリーライター、沖縄県那覇市生まれ。沖縄のタウン誌の草分け『月刊おきなわJOHO』の創刊メンバーとして参画。沖縄ネタならなんでもOKで特に食べ物関係に強い。現在も『月刊おきなわJOHO』で食べ物コーナーを15年以上掲載中。
著書、編著、共著に『沖縄大衆食堂』、『笑う沖縄ごはん』、『泡盛『通』飲読本』(各双葉社)など多数ある。共著で『沖縄離島のナ・ン・ダ』(双葉文庫)と『もっと好きになっちゃった沖縄』(双葉社)、『沖縄食堂』(生活情報センター)が発売中。


(ハイウェイドライブインのおかずの写真提供=おきなわJOHO)
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