『カラー 沖縄の怪談』と『沖縄の幽霊』の二本立て

ryuQ編集室

2010年09月06日 09:00



最近「怪談」の本を読み続けている。趣味と実益を兼ねて、といったところ。日本には「百物語」という伝統的な怪談の語りの形式がある。その現代版というべき本がここ数年実に多く出ているのですね。『新耳袋』シリーズがその代表格だろう。
 もう9月なのに、「怪談」なんて季節はずれとお思いだろうか。うんにゃ、ここは沖縄旧暦で言えば7月、そしてもう8月。8月こそ、沖縄でそういう「怪」を見るにもっとも適したシーズン・イン・ザ・ユーリーなのである。
「ヨーカビー」とは旧八月八日から十一日ころのことで、妖怪日とも書く。むかし沖縄では、各むらむらで夜中になるとタマガイ(火の玉)が見られるといい、実際この時期になると、青年達は小高い場所に集まってむらを見渡して、どこぞの家から火の玉があがらないかと見張る、という行事があったのだ。で、実際見た人は数多いのである。

■『カラー 沖縄の怪談』(月刊沖縄社)
 
 さて沖縄県産本数ある中で、怪談の本をまず一冊挙げろと言われたら、迷わず『カラー 沖縄の怪談』である。かの「月刊沖縄社のカラーシリーズ」の中でも異彩を放つ一冊。琉球弧に昔から現在まで(と言ってもこの本は1973年発行だけど。ちなみにこの年、ポール・マッカートニーは名作『バンド・オン・ザ・ラン』を発表している)伝わる、幽霊、妖怪話、こわ〜い伝承を、豪華なカラー絵図にレトロ感溢れるイラスト、さらに現地写真や生々しい風習の写真を駆使して、読者の五感プラスまぶいに訴える内容なのである。
 いわく「この本には、沖縄の代表的な幽霊・妖怪の話43編あつめました」なのである。うちなーよい子のみんなが恐れおののく「識名坂の遺念火」「喜屋武岬のはなもー」「水槽で溺死した五人の女」「本部アミ川橋の幽霊話」「裏声で泣く幽霊」「借金を催促される幽霊」……、沖縄人ならぜひ知っておいてほしい怪談の名作・珍作揃いである。とにかくぜひ一度は手にとって欲しい県産本の快作。
 僕が一番インパクトを受けたタイトルは「佐敷のハンドバック幽霊」である。

 今回久々に開いて思ったのだが、現地風景写真がいい味出している。というのも出版当時は、昔から語られているこの怖い話の場所は現在こうなっていますという意味合いだつたのが、あれからやがて四十年も経とうしているのだから、その写真自体がもう貴重なものとなっているのだ。よく見ると心霊写真に、本物の風葬の写真、沖縄の風習であった死んだ猫を木に吊している写真なんてのもあるから、うとぅるさよ。そして……
■『沖縄の幽霊』(那覇出版)

 もう一冊といえば、〈沖縄県産本のスーパースター〉のひとり、噂では現在もっとも多くの県産本の著書を持つ福地曠昭氏の『沖縄の幽霊』である。これは2000年9月、那覇出版から刊行されている。サブタイトルが「沖縄の幽霊百景+20話」、つまり120話の幽霊話が収められている。
 著者の福地氏についてここで書くにはあまりにも深いお人なので省略しますが、あの福地曠昭が幽霊話を集めていたのか! と分かる人にはぐっとくる本である。
 これはですね、著者が「全島から集めた不思議体験」なのだ。つまり実際に体験したと証言している話なのである。沖縄版「新耳袋」と言っていい内容だ。

〈私は自分の体験も含め、約十年かけて霊媒者、タクシー運転手、ホテル経営者、病院、教育関係者から聞きとってきた。また新聞に載った戦前のゆうれい話も含めることにした。
 決して手を加えるような創作めいたことは記述していない〉
 そして、帯の惹句を見よ! 
〈沖縄には幽霊がいっぱい!!〉
 そうなんだ! 
福地氏によると、ゆうれい話ができるのは平和の証拠なのだそうである。集められた120話、読み終えると、またひとつ違う沖縄の姿が立ち上がってくるのではないだろうか、逆さまに……。

 ところで、さっきから袖を引っ張って、この原稿を書くのをじゃましている子どもがいるのが、と、とっても気になっているんのだケれドも、DAreかiRUのかなアあああ。

新城和博の『ryuQ100冊』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html


プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/

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