『沖縄は海も野原も薬草だらけ』

ryuQ編集室

2010年08月23日 09:00



今月は、薬草の話。ナーチョーラー=別名海人草(かいにんそう)と、それにまつわるエピソードです。

*良薬は口に苦いけど、心に染み渡ります

我が家の祖母は、医者泣かせな魔術師だった。朝、台所から異臭がすれば、大体は、祖母が薬草を煎じていた。子供の目からすると、祖母が緑色の湯気の立つ鍋の前でこちらに向かってほくそ笑んでいるようで、ちょっと不気味に見えたものだ。

「ナーチョーラー汁、でぃきとぅぐとぅ、よんなーよんなー かみよー」
(ナーチョーラー汁が出来上がっているので、ゆっくりゆっくり食べなさいよ)

この台詞をきくと、私たち兄弟は、とたんにいい子になるか暴力で抵抗するしかなかった。私はもっぱら後者の方で、何度ナーチョーラー暴力を振るったかしらない。結局、祖母に横抱えにされ、口の中にナーチョーラー汁を注ぎ込まれるはめに至る。

涙と鼻水とナーチョーラーの味で、口の中は異次元の世界。あのまずさは、類を見ないまずさである。兄と妹の「がんばれ、がんばれ!」の声が遠くの方から聞こえてくる、そんな味。今の時代ならナーチョーラー虐待で、私は世間の同情をかっていただろう。

*ナーチョーラーとは

ナーチョーラーとは、別名海人草(かいにんそう)。紅藻のマクリである。昔から、虫下しや赤ちゃんの胎毒下しに使われていたそうだ。

あの独特な苦味と風味がギョウ虫や回虫に効果があると言われているが、不思議な事にこの世のものと思えない臭みも苦みも喉元を過ぎれば、胃部に清涼感がでたものだ。
祖母は、私の落ち着きのなさがギョウ虫によるものと判断したのだろう。定期的に強制飲用された苦い思い出の薬草である。

でも、おかげさまで、砂場の砂を食べても、拾い食いをしても、手を洗わなくても、一度もギョウ虫が私の腸に寄生する事はなかった。
祖母の愛情が身にしみる思い出でもある。
*師匠からすすめられ…

結婚して、魔術師の家から脱出し、ほっとしたのもつかの間、婚家には魔法使いがいた。我が師匠「舅」である。別名義理の父。この魔法使いは、祖母より若いだけに厄介である。その上、若き嫁時代は義理立てて「お父さま扱い」をしたものだから、図に乗って(?)よく魔法をかけられた。

魔法使いの棚には、どこから入手したのかいろんな薬草が瓶につけ込まれ陳列されている。「猿の腰掛け」から「猿かけみかん」、「医者泣かし草」、「さくな」、「ふーちばー」などなど。特に猿系がお好きなようで、猿かけみかん汁は、抜きん出たまずさである。甘党の師匠とよく一緒にまんじゅうを食べるのだが、自分ですすめておいて、甘い物好きは糖尿の気があるので猿かけみかんの汁を飲めと、半ば強制するのだ。断るにも目が三角になっている師匠を見ると、飲まざるを得ないので飲む。不味いにも程がある不味さである。

*いにしえ人の知恵

しかし、飲んだ日の便通の良さ、呼気の清らかさは不思議としかいえない。こうして、元医療人である私は、ステロイドを使う若い母親に、「おむつかぶれやアレルギーにはヤンバル茶でお風呂に入れなさい」と、口うるさいおばばに成長した。

正直、今でもこんな不味いものが食えるかっと、あの不味いに腹の虫が治まらない事もあるけれど、魔術師の孫は長じて魔法使いになりつつあるのである。それは、いにしえ人の知恵が、うかつに笑えない事を経験済みだからである。

比嘉淳子の『ryuQ100花』バックナンバー:
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プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『家族まるごと福お祝いマニュアル』(双葉社刊)が発売中。

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