一年中いつでも食べられる。ランチは食堂で一人「すきやき」

ryuQ編集室

2010年05月17日 09:00


 ゴールデンウィークが明けた翌日、5月6日に沖縄は梅雨入りした。平年より2日早く、去年よりは12日早い梅雨入りだそうである。

 だから、沖縄では連日ぐずついた天気が続き、天気のいい日でも湿度が高くジメジメとした日々が続いている。こう、ジメジメした鬱陶しい天気が続くとゴーヤーやナーベーラーといった、沖縄の野菜を使った料理が食べたくなる。が、ゴーヤーもナーベーラーもこのコーナーではすでに紹介済みなので、今回はゴ−ヤーチャンプルーもナーベーラーンブシーも特にこのコーナーでは紹介するつもりはない。

 そこで思いついたのが、食堂へ行ってじっくり一人で「すきやき」でも食べようかということである。「え、沖縄ですき焼き、こんなに暑いのに、しかも食堂で。且つ一人で」と思う人もいるかもしれない。さらに「ということは、淋しく一人鍋?」と思う人もいるかもしれない。そう、沖縄の人は暑くなると一人で「すきやき」を食べるのである。それに沖縄の食堂では1年365日「すきやき」が食べられるのである。

 賢明な読者ならすでにお気づきだろうか。
沖縄の食堂にある「すきやき」は平仮名で「すきやき」もしくは片仮名で「スキヤキ」と表記されており、いわゆる一般的な「すき焼き」ではない。では、一般的な「すき焼き」とは何か。気になったので三省堂の「大辞林」で調べたら「牛肉をネギ・白滝・豆腐などとともに、醤油・砂糖などで調合したタレで煮焼きしながら食べる鍋料理」とある。場所によっては牛肉ではなく豚肉や鶏肉を使うところもあるのだが、一般的な考えとしては「すき焼き」は鍋料理である。鍋料理であるからこれから暑くなるとなかなか食べる機会が減る料理ともいえる。もちろん、沖縄でも鍋料理の「すき焼き」はある。

 が、しかし、沖縄の食堂では「すきやき」は鍋料理ではない。だから一年中、食べたくなったらいつでも好きなときに食堂に出かけて食べるのである。

 それならば、沖縄の食堂の「すきやき」とは何か。と、問われれば、ハタっと考え込んでしまう。ひと言で言えば「牛肉を野菜や豆腐、春雨(白滝のところもある)と一緒にダシと砂糖醤油と煮込み、真ん中に生卵を落とした一品料理」である。

 で、味はどうかというと、これが意外だけど、すき焼のような味がするのである。しかも、店によって味が変わるのは当たり前としても、実は、同じお店でも作る人のよって味が微妙に変わるのである。

 今回、写真で紹介している、三笠食堂の「すきやき」は、玉ネギを鰹節のダシで煮込んだあとに牛肉やキャベツ、春雨、豆腐を入れ煮込み、醤油と砂糖などで味を調え、レタスを入れて火が通ったところで最後に生卵を落としている。さらに、同じく写真で紹介しているやんばる食堂の「すきやき」はほぼ同じ材料だが、三笠食堂に比べてやや甘みが少ないように思われるが、野菜と牛肉の味わいは絶妙といえる。また、どちらも卓上コンロの上に置かれた鉄鍋の上で展開されていたら、「すき焼き」といえないこともない。

 とにかく、沖縄の食堂では「すきやき」をご飯に合うように改良し、見事に食堂の一品料理に昇華?させたのである。その味わいは本土の「すき焼き」と若干違うかもしれないが、それでもその根底には微かに「すき焼き」のテイストが感じられる一品である。

 まあ、とにかく沖縄の食堂の「すきやき」は夏でも注文が多い人気のメニューである。なにしろ、牛肉の旨味と野菜からの旨味が溶け込んだ甘辛いタレが素材の味を活かし、ご飯との相性も抜群だからである。タレを吸い込んだ春雨がまた、心憎いほどいい仕事そしており、春雨だけでご飯が一杯食べたいほどである。そして煮込んだ玉ネギが丼物に親子丼などに使われたときのように甘くなっており、これだけでももう一杯ご飯をお替りしたくなる。ほんで、メインの野菜が白菜ではなくキャベツなのも「すきやき」の特徴であるが、キャベツもまたよく合っているのである。季節によっていろいろ変わるけど青菜もいい感じである。特にレタスの場合は味と香りと歯応えがタレと絶妙にマッチして、ボクはお気に入りの具材である。また、真ん中に落とされた生玉子を溶いて野菜や肉と一緒に食べるとコクと旨味が深さをましさらにご飯が進む。

 今、この原稿を書いているのが午前2時ごろだけど、「すきやき」の話を書いていたらお腹が空いて「すきやき」が食べたくなった。三笠食堂もやんばる食堂も24時間営業なので、この原稿を書き終えたら食べに行こうかどうか悩むところである。

嘉手川 学の『ryuQ100味』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73393.html


筆者プロフィール:嘉手川 学(かでかわまなぶ)
フリーライター、沖縄県那覇市生まれ。沖縄のタウン誌の草分け『月刊おきなわJOHO』の創刊メンバーとして参画。沖縄ネタならなんでもOKで特に食べ物関係に強い。現在も『月刊おきなわJOHO』で食べ物コーナーを15年以上掲載中。
著書、編著、共著に『沖縄大衆食堂』、『笑う沖縄ごはん』、『泡盛『通』飲読本』(各双葉社)など多数ある。共著で『沖縄離島のナ・ン・ダ』(双葉文庫)と『もっと好きになっちゃった沖縄』(双葉社)、『沖縄食堂』(生活情報センター)が発売中。

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