小さな気づきから社会が優しくなり、勇気や自信を持ってもらえるような支えにこの絵本『いっぽ いっぽ』がなれたらいいなと語る著者の田畑ユカリさん(沖縄市在住)。
インタビュー【前編】に引き続き、第2作目、3作目についてもお話頂きました。絵本『いっぽ いっぽ』シリーズを通して伝えたかったこととは。
——話題の絵本『いっぽ いっぽ』の第2作目では、そのまま続きの話になるのかと思っていたら、意外にも、ペット犬(ミント)からの視点で描かれていますよね。なぜ、また別の視点から描いてみようと思われたのでしょうか?
田畑ユカリ:第1作目では動物のキャラクターに描いてきましたが、「実は現実に人間の話なんですよ」ということをあらわす為に、ペット犬のミントから見た視点でその続きを描写してみました。
この絵本では、事実に基づいたことを描くようにしています。それをリアルに生々しく障害のことを表現するよりは、犬のミントに代弁してもらったかたちになります。
それでも、うちは明るい障害者家族なんです。障害を持った双子の兄妹が喧嘩する時も、本人たちはそれを笑いに代えられるような明るさがあったりします。いくつかのエピソードもペットのミントと一緒にユーモラスに描いてみました。
第1作目で描いたキャラクターも再び登場し、みんなで手をつないで“地球でみんな仲良く”というのを表現してみたりしました。
——そして第3作目では、また再び、しゅうちゃんともくんをはじめ、みんなが動物キャラクターに戻りますね?
田畑ユカリ:一作ごとに交互に表現しようと思っているんですね。ですので、このあと出版していく予定の第4作目ではまたミントが代弁者として再び登場予定です。
——そのどちらも現実の実話を、視点を変えながら表現されてきたのですね。
田畑ユカリ:そうですね。第3作目に出てくるバリアフリーの話も実話ですし、そこに描かれている街も実際と同じですが、登場人物はご本人の了承を得て動物キャラクターのタッチとかにして表現して描いています。
当時住んでいたアパートから、毎日歩いて通学しました。雨が降っても車とか使わず、遅刻欠席することもなく、台風や通院以外はずっと頑張って登下校し、学校からは表彰されたりもしました。
本人たちも、学校が大好きでしたね。
——第1作目の子供たちが「学校に行きたい!」というところから始まって、家族や友達や学校や地域の協力もあって乗り越えていく姿が全作品を通して描かれていますね。
このシリーズを通して、読者のかたに伝えたかった事とは?
田畑ユカリ:やっぱり、地域に守られてきたという実感を、うちは障害を持っている子供たちがいるので分かると思うんです。
ある日、お友達を見送るといって、となりの団地まで行く途中、溝に車椅子の車輪がはまって倒れてしまったんですよ。
夕方で日も暮れてきている頃だったんですが、通りすがりの車が彼女を助けてくれたりして、もうそれだけでも感謝ですよね。それが、もし健常者で何の心配もなく歩けていたら、こういう感謝(の心)がわからないんじゃないかなと。
雨の日とか、車で送り迎えしてもらう子供たちもいっぱいいるのですが、学校まで近いのに歩かなくて車で登下校したりすると校門のあたりが混雑するほどで危なくもあるんですね。
それを車に乗らずに傘をさして歩くことで、雨の感覚を感じ、自然を体感できるんですよ。そういう感覚も大事なことであるんですけど、なかなか伝えられないんですね。
つい便利だから車でパッと来て、傘も持たない生徒もいたりするくらいなんですよ。
——自然にも触れられるだけでなく、地域とのふれあいもあるわけですね。地域の人との挨拶(声の掛け合い)からはじまって、そのコミュニケーションが地域を守っていると。
田畑ユカリ:道を歩くことで、街の人たちと声を掛け合ったりすることとか。歩きながら、風を感じたりすることとか。
そういうのって大切なことだけど、当たり前すぎて、感謝の気持ちが沸き上がったりはしないですよね。
でも、そういう小さな気づきがある感覚があれば、「ここは見通しが悪いから、草木を刈ったほうがいい」とか、
傘を持たない事よりも、登下校の混雑の中で車が出入りが激しい事のほうがよっぽどキケンであるという事になかなか気づかなかったりする事がわかるような、そういう優しい社会にね。
——なるほど、いろんなメッセージがさり気なく込められているのですね。
田畑ユカリ:はい(笑)。でも、できるだけさり気なく、ですね。
——1作目では小学校入学の頃でしたが、これまでに3作ほど出されてきて、今、お子さんたちはもう中学2年生になるそうですね。
この本がお子さんたちにとってはどういう存在になっていますか?
田畑ユカリ:息子や娘にとって、この本を世の中に出して良かったなと思うのは、
例えば、学校で何かをするにしても、この本が(心の)支えになっているというか、自分の事が書かれた本があるという事が力になっているな、と感じたりすることがありますね。
具体的には例えば、中学に進学したら小学校時代のお友達ばかりではないですよね。
そこに自分から進んで自分の事を話たりとかするようになりましたね。この本が支えになっているなと感じます。
中学生になった息子は今、落語をはじめています。歩くのは少し不自由でも口は達者なので、おきらく亭はち好さんに落語を習っていますね。
この本をきっかけに、もっと自信を持ってもらいたいと思っています。
そして障害を持ったお子さんたちのお母さんたちにとっても、支えになるようなバイブルになっていったら嬉しいなと思います。
(→【前編】を読む)
(取材: KUWA)