愛して愛して愛しやまない幸せの黄色いカレー

ryuQ編集室

2009年07月20日 09:00


本格的な夏に入り、連日、暑い日が続いている沖縄だが、ボクの住んでいる地域は那覇でも緑の多い高台にあるため、窓を全開にすると涼しい風が部屋を通りに抜けていき、真昼でもクーラーいらずに過ごしている。寝る前は用心のため窓を閉めクーラーを入れて寝ているけれど、できれば世の中がクーラー無しの生活ができるようになればいいなと思う。

ところで、毎年、今の時期になるとボクは毎朝マンションの緑地帯に集るサンサナー(クマゼミ)の大合唱で目を覚ますのだが、今年はサンサナーの集まりが悪いのか、大合唱には程遠くアッチでサンサンサンサンサンサン、コッチでサンサンサンサンサンサンサン、まるで輪唱のように交互に鳴いているだけである。ちなみに沖縄ではクマゼミはサンサンサンサンサンと鳴くからサンサナー、アブラゼミはナービカチカチカチカチカチと鳴くからナービカチカチという。今年は目覚めが遅いサンサナーだが、なぜなのか旧暦付きのカレンダーを見ているとふと気がついた。今月は海の日を過ぎてもまだ、旧暦の5月なのである。やっぱり旧暦6月を過ぎないとサンサナーも活動が活発にならないのかと思うと、自然と連動している旧暦ってスゴイなーとあらためて思ったのであった。


ところで、今月のテーマ、黄色いカレーである。
実はこの黄色いカレー、ボクはもう10年以上前からライフワークとして黄色いカレーのある店を見つけては食べ歩いては、月刊おきなわJOHOのボクのコーナーで取り上げている。ボクが黄色いカレーに執着したのは20年近く前、昔からの遊び仲間とキャンプをしているときに子供のころに食べた食堂のメニューの話題になり、そこで黄色いカレーで話しが盛り上がり、急に黄色いカレーが食べたくなり、キャンプの帰りに復帰前から営業している恩納村のドライブインに行きみんなで食べたのである。以来、黄色いカレーを食べたくなると古い食堂や老舗レストランで注文するようになった。そして、10年ほど前に黄色いカレーは残さなければならない「沖縄の食の遺産」だと思いライフワークにして、ときどき「月刊おきなわJOHO」で取り上げるようになったのである。そのきっかけとなったのが、東京の出版社の知人に黄色いカレーを紹介したら、「世界で一番まずいカレー」みたいなことをいわれたからである。そして、これをカレーと呼ぶには」的なことをいわれたからである。そして、本土には沖縄の黄色いカレーのようなカレーは無いとも言った。

実は沖縄での黄色いカレーの出自はいまだ謎のままである。小麦粉とカレー粉をバターやラードで焦がさないようじっくり1時間以上、艶が出るまで炒めたカレールー使っているのはたしかで、この作り方は一般的な洋食屋のカレールーとあまり変わらないと思う。洋食屋ではここからさらに玉ネギを炒めて作ったペーストを加え、ブイヨンを加えることでお店独自のカレーソースになると思うのだけれど。ずいぶん前だけど、テレビの旅番組を見ているとき、黄色いカレーに近いとなぁと思ったのが横須賀の「海軍カレー」だった。作り方は黄色いカレーとほぼ同じで、その出自は明治時代の海軍ということだった。しかし、シンプルな作り方ではなく店ごとにカレーの色は様々で、手の込んだシチューのような店もあった。ただ、番組では「海軍カレー」は「海上自衛隊カレー」として踏襲されているといったので、いつか機会があれば「海上自衛隊カレー」を食べたいし、作り方も見たいと思う。また、沖縄には黄色いカレーが戦前からあったのかどうかそれもハッキリしない。唯一、わかっている事は、かつてAサインバーで働いていた人のよると、「黄色いカレーは戦後、アメリカ人向けのレストランから始まったのではないかぁ」といった。戦前の「海軍カレー」、戦後の「Aサインのレストラン」。いずれにしろ、ボクにはいつか調べなければならない命題だと思っている。

黄色いカレーに執着するもう一つの理由は黄色いカレーの持つ懐かしい味わいと、子供のころに黄色いカレーを食べていた時代背景を思い出すからである。裕福だったとはいえない時代の中で、家族揃って外食は、レストランではなく食堂であっても贅沢なことだった。両親と兄弟が好きなものを頼んで、それを見ながらニコニコしながら泡盛を飲む親父と微笑むお袋。食堂で食べるカレーライスやオムライスにはまぎれもなく家族の絆や幸福のひと時が味わいと共に記憶に刻まれている、いわば違いの分かる男の“哀愁とノスタルジーな味わい”ともいえるからである。

県内で黄色いカレーをメニューとして置いている店は、どちらかといえば創業30年以上の古い老舗の飲食店が多い。食堂はもちろん、洋食レストランや沖縄そば専門店、ステーキハウスやドライブイン、ラーメン屋、パーラーなど年季の入っている店構えだとだいたい黄色いカレーがあったりする。ていねいに作ったカレールーにお店で使う沖縄そばのダシやレストランだとスープ用のダシを入れて伸ばすことで店ごとに微妙に違う味わいになる。だから、沖縄そばの美味しい店やスープの美味しいレストランの黄色いカレーは間違いなく美味しいといえる。

ところで、「世界で一番まずいカレー」といった東京の知人も、本格的カレーと対極にあるともいえる黄色いカレーをボクと何回か食べているうちに、あのもったりとしたドンくさいというか、野暮ったい味わいのカレーにはまってしまい、沖縄に来たら沖縄そばと黄色いカレーを必ず食べて帰るようになった。とはいえ今でも「カレーじゃないんだけど、カレーなんだよな」といって、首をかしげながら食べている。

もしかしたら、かつて本土にも黄色いカレーはあったかもしれないけれど、なんだかの理由で絶滅(もしくはそれに近い状態)してしまい、かろうじて沖縄にだけ残っているかもしれない。何はともあれ、沖縄では黄色いカレーの店が少なくなったとはいえ、まだ食べられる店があるので、沖縄の食べ物としてボクは沖縄の食として伝え残して行こうと思っている。ちなみにボクの好きな黄色いカレーの店は沖縄市の「レストランモンブラン」とラーメン屋「めん匠」、宜野湾市の「みどり屋食堂」、那覇市の「ジャッキーステーキハウス」、「むつみ食堂」、「御食事処やまさち」などである。

嘉手川 学の『ryuQ100味』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73393.html


筆者プロフィール:嘉手川 学(かでかわまなぶ)
フリーライター、沖縄県那覇市生まれ。沖縄のタウン誌の草分け『月刊おきなわJOHO』の創刊メンバーとして参画。沖縄ネタならなんでもOKで特に食べ物関係に強い。現在も『月刊おきなわJOHO』で食べ物コーナーを15年以上掲載中。
著書、編著、共著に『沖縄大衆食堂』、『笑う沖縄ごはん』、『泡盛『通』飲読本』(各双葉社)など多数ある。共著で『沖縄離島のナ・ン・ダ』(双葉文庫)と『もっと好きになっちゃった沖縄』(双葉社)、『沖縄食堂』(生活情報センター)が発売中。

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