那覇の[本通り]とは(文・新城和博)
ここのところパッとした話題のない沖縄の出版・書店業界ではあるが、久々に大きいニュースがあった。ジュンク堂の那覇出店である。全国各地で次々に出店しているジュンク堂だが、ここ那覇にもやってくるとは、意外といえば意外。しかも場所が、那覇の沖映通りのダイナハ跡である。復帰後の、沖縄に初の大型スーパーの出店ということで話題となり、周辺商店街の反対デモまで起こったダイナハ(ダイエーの那覇店のこと)が撤退したのが、2005年のこと。以来、沖映通りはランドマークを失い、美栄橋駅というモノレール駅と国際通りに繋がっている商店街通りとしてはきわめて人の流れが少ないところになっていた。時の流れを感じずにはいれなかったそこに、ジュンク堂である。しかも国内でも四番目くらいに大きい規模を予定しているというから、沖縄県産本編集者として、そしていち本好きとしても、俄然興奮するのである。沖縄関係本も充実させるということで、そのコーナーだけでも100坪ある!という。うちの事務所よりも遙かに広い。
この沖映通りをちゃーまっすぐ国際通りを越えて行くと、今や那覇有数の観光スポットとなっている第一牧志公設市場がある。その向かいにちょんと佇んでいる古本屋さんがある。自称“日本一狭い古本屋”の「とくふく堂」だ。数年前沖縄に引っ越してきた夫婦が営む、まぁ変わった古本屋さんだ。たまに寄るのだが、本を買うよりも立ち話をすることの方が多かったりする。ちなみにここで今年最初に買った本は、『ミャークヅツ 初出親のための手引き』という、自費出版本(前泊廣美著 HOST・M企画発行/ちょっと変わった版元名だが、これは著者のお子さん達のイニシャルを並べたのだそう)。これは宮古は池間島の最大行事である「ミャークヅヅ」のマニュアル本だ。初めてこの行事に参加する池間出身の男性のために書かれたものだ。そう池間民族マニアにはたまらない一冊といえよう。これはさすがにジュンク堂には置かれないだろう。
さらに通りをずんずん進むと、浮島通りとの境目にちょこんとあるのが、僕が思うに、沖縄で一番小さな新刊書籍も扱う本屋さん「文栄堂」である。かつては国際通りに店を構えていたのだけど、数年前に店を縮小してこの場所に移動してきた。市場の店独特の小さな一間の店構えで、婦人雑誌などと一緒に、『沖縄琉球暦』(旧暦の沖縄の行事ごとに必要な暦 沖縄ではよく見かけるのだけど。東洋易学会沖縄本部発行)や、我がボーダーインクの『よくわかる御願ハンドブック』など御願関係本などが売られている。お世話になっている本屋さんである。
かつて市場周辺・国際通り中心には本屋さんがいくつもあったのだが、いつのまにかほとんど無くなってしまった。ところがその少ない書店が、通りを越えて一直線上に並んでいるのである。“沖縄一大きい書店”と“日本一狭い古本屋”と“沖縄一小さい本屋”。しかも名前に「堂」が付いている、というところまで揃っている。いろんなタイプの本屋さんがある、というところがいいのだ。ここはひとつ、この並びを勝手に「沖映市場本通り」と名付けて、本屋さんによる那覇の街づくりプランを妄想することにした。みなさんも散歩がてら、那覇の街を本屋さん巡りしてみるのはどうだろうか。街の人の流れが少し変わりそうな予感がするのである。
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