「下千鳥」(歌・嘉手苅林昌/マルテルレコード)ほか
今年は嘉手苅林昌さんが亡くなられて10年になります。私のレコード収集も氏のレコードを求めたことに始まります。故嘉手苅林昌のなるべくデジタル化されていないレコードのことなどを交えながらしばらくは語っていきたいと思います。お付き合い下さい。
「ちえーこーじゃー」マルフクレコード
(歌・喜納昌永、山里ゆき子 FS-2 1959)
最近めったに聞こえなくなった「ちえーこーじゃー」。そういえば山里ユキ本人もデビュー曲でありながらなかなか歌わないようだ。曲も分かりやすく、内容も恋歌でデュエットにぴったりなのだが、やはりタイトルがの意味がよく分からないからなのか。それで前にその意味の由来を調べたことがある。東恩納寛惇の著作に「タイ語で白米のことをカオ・チャオと唱へていて、読谷村長浜でとれる白米をヨンタンザ・コージャーと呼んでいる」(ようするに米の一種である)と言う文章に出会った。タイトルを括弧で閉じて現代風のタイトルにすればぜんぜん歌える歌だと思う(そうまでしなくても大丈夫)。ともあれこのレコードは「マルフクレコードの初ドーナツ盤として発売され、ユキの美声は、ラジオから全流に轟き渡ることになりました」(2007年11月30日、山里ユキ芸暦45周年コンサート「命一ち・歌一ち」のパンフレットの普久原恒勇の文章より)という記念すべきレコードなのであります。
「下千鳥」マルテルレコード
(歌・嘉手苅林昌 MT-1010 1965)
「ちえーこーじゃー」「嘆きの梅」「新里前とよー」は同じ日に録音された。嘉手苅林昌、喜納昌永そして山里ユキの3人は、本部から那覇までの車の中で練習して覚えてすぐ録音と言うから凄い。聞き覚えのある曲ならいざ知らずだ。しかし嘉手苅林昌となると録音スタジオで頭の中から歌を絞りだして、その場でうたを語っていく…
♪千鳥浜千鳥 ぬがし鳴ちどぶる
母ぬおもかげぬ 立ちど鳴ちゅみ
母ぬおもかげや まりまりど立ちゅる
ありがおもかげや 朝ん夕さん
千鳥浜千鳥 鳴くな浜千鳥
鳴きばおもかげぬ まさて立ちゅさ −下千鳥−
「下千鳥」は別れや悲しみを表現する歌で、歌への情け入れ、すなわち感情移入が重要である。♪千鳥浜千鳥、と語りかけながら絞り出しながら言葉に感情を滑り込ませる嘉手苅節は淡々と語りかけているようでも聴く人の心の中まで響く。数多い嘉手苅林昌のドーナツ盤の中でも名盤の一つだといえる。
●小浜 司の『ryuQ100歌』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73392.html
筆者プロフィール:小浜 司(こはま つかさ)
沖縄県国頭郡本部町出身。幼少期を那覇市で過ごし、中学以降宜野湾市に遊ぶ。大学卒業後ヤマトへ。季節工などの底辺労働に従事しながら、アメリカ、東南アジア、中国、アラブの国々を旅する。沖縄に帰り、クリーニング屋の経営をしながら大城美佐子や嘉手苅林昌のリサイタルなどをプロデュース。「風狂歌人」(嘉手苅林昌)や「絹糸声」(大城美佐子)など沖縄音楽CDを多数製作。2002年、国際通りに島唄カフェまるみかなーを開く。2004年沖縄音楽デジタル販売協同組合に参画しインターネット三線教室を始める。2006年、拠点を壺宮通り(那覇市寄宮)移し、島唄カフェいーやーぐゎーを開店。沖縄音楽の音源や映像の楽しめる店として好評を博している。
島唄カフェいーやーぐゎーHP:http://www.ryucom.ne.jp/users/iyagwa/
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