優しくてのびのびと明るい“歌うたい”の新垣優子さん。彼女にとって、地元沖縄本島では初ライブだったという先月の凱旋帰郷ライブのこと、オリジナル・フルアルバム『風ヌ葉』のことなど、
インタビュー[前編]にひき続き、さらに詳しくご紹介してゆきます。
——アルバム『風ヌ葉』を作るきっかけとなったエピソードをぜひお聞かせください。
新垣優子:実は、かたちに残すということは、まだ自分の中ではしたく無かったんですが、神戸で歌った時に沖縄出身の皆さんから「CDは無いの?」とよく訊ねられ、周りの人たちからも「そうやって待っている人もいるんだよ」「だからその時の自分の記録ということにしたら?」って言ってくれたりして、
「そうか!! 声は年と共に変わって行くものだし、待ってくれている人たちもいるんだ。作っていいんだ」と思うようになり、気持ちも少しずつ変化してゆきました。
そして神戸から長崎県の五島列島へと転勤すると、さらに歌う機会が無くなってゆきました。そのとき夫から「歌っていない新垣優子は、新垣優子じゃない」といわれ、ドキッとして…。たしかに歌っていない時は元気が無いんですよ。
自分をもう一回奮い立たせるというか、歌に対しての想いを表現してみようと思い立ちました。
やるのであるなら“自分らしいもの”をやりたいと思って、それで民謡だけでなく童歌もいれることにしました。
「歌のある生活」という意味でも子供たちへの童歌は欠かせないもので、歌を通して育まれるものでもあって、そしていずれ大人になった時にもきっと繋がってゆくものと、そういう想いで活動していたのもあって。それに、子供から、親、おじいちゃんやおばあちゃんまで一緒になって聴けるもの、それが童歌だと思うんです。
そしてもうひとつ、歌と一緒に私が活動している『かりゆしゆうちゃん劇場』という人形劇や紙芝居も一緒にひとつなんですね。ふだんのライブの中でも、同時に紙芝居などの出し物をやったりしているんです。
そして、このCD『風ヌ葉』のジャケットは2004年に自分で書いた絵なんですが、地元辺戸区でゴミ処理場建設の問題で裁判があったんです。辺戸区のおじいやおばあが炎天下の中で、建設予定地に座り込みしていて、命がけで山を守った時に、自然に恩恵を受けて生きてきた者として山を守るのは当然、という姿をしっかりと見せられました。
私も頭では環境の事を知っていたつもりだったけど、自然への想いが自分の中ではまだまだ小さかったなと思い、自分で出来ることで、森の再生ということをテーマに描こうと思いました。自分たちは自然の一部で、その循環の中で生きているんだということを表しかったですし、最北端の辺戸から、こういう大事なことが沖縄中に拡がっていけばなぁというようないろいろな想いを込めて描いたもので、それをアルバムに使いたかったんです。
——辺戸の共同売店にも、優子さんのCDが販売されているとか。
新垣優子:いつも辺戸に帰ると「優子〜、(故郷に)帰ってきたね〜」って、みんなが採れた魚や野菜を持ってきてくれて声を掛けてもらえるんですよ。
子供の頃は小さな集落の中で端から端まで遊んでいたので、疲れていろんな人のおうちの門の前で寝てしまっていたりして(笑)、そのお家のおばあが通ると「優子〜、お腹空いてないね」って、自分の孫でも無いのに何か食べさせてくれたりとか、人のおうちで夕ご飯食べていると、
「うるぐちぐぁの優子ちゃん、お家に帰ってください〜」って、公民館からのアナウンス放送が流れてくるんですよ(笑)。
そのおばあたちがCDプレイヤーも無いのに共同売店から買ってくれたりと、子供の頃からいつももらってばかりですが、辺戸の村の人にはずいぶんと可愛がってもらって育ててもらいましたね。
——後半で歌われた『デンサー節』には、その辺戸のことが歌われていましたね。
新垣優子:最初の三節は、父親が生前に残してくれていた歌詞なんです。父は、
途絶えていた『御水取り行事』を頑張って復活させようとしていたのですが、その御水取り行事の復活への想いを父が琉歌に残していたので、これは私が歌ってゆきたいと思いました。
そして、最後の一節には、私が島の志情けを心にとめて生きてゆきたいという想いを歌にしました。
「かなし(愛おしい)生まり島 志情ぬウチナー
いちまでぃん 肝に染みてぃいかな デンサー」
——共演された佐渡山豊さんが「優子は親孝行しているね」っておっしゃっていましたね。
新垣優子:佐渡山さんはとっても尊敬する先輩で、私が言えないようなことを直接的に歌で代弁してくれるような凄いかたですよね。
——これから新垣優子さんは、歌を通してどのようなことを伝えてゆきたいですか。
新垣優子:自分が体験し生きてきた事と歌とは別々のものではなく、自分の中で噛み砕いていかなければ相手には伝えられないと思うんですよね。
例えば、辺戸では魚が捕れたらお裾分けしてみんなお互いにあるものを分けてゆくとか、それは人との繋がりについて、村の人たちに教えてもらった事などです。
——それは単に、物とモノの物々交換というのではなく、気持ち(心)が通うものですね。
新垣優子:きっと、優しさとか、自然に出てくる気持ちですね。それを歌とかで表現して伝えられたらと思っていますし、大事にしていきたいですね。
(→
もういちどインタビュー[前編]を読む)
新垣優子『風ヌ葉』(2500円)
(わしたショップや県内CDショップのほか、辺戸共同店でも購入可能)
(取材: 桑村ヒロシ、取材協力: B/Cレコード、佐渡山豊事務所、和田弥一郎さん)