エイサーの未来 〜これからの継承について〜

ryuQ編集室

2008年09月04日 09:00


エイサーのメッカを誇る「エイサーのまち宣言」の沖縄市。毎年恒例の『沖縄全島エイサーまつり』には、今年も県内外からたくさんのエイサーファンが駆けつけ、大盛況で賑わいました。

しかし、エイサー演舞の勇壮な魅力が全国に広がる一方で、本来のエイサーの役割である沖縄伝統の旧盆時に先祖をもてなすためのエイサーの意味が観光客や県外ファンにはまだまだ充分伝わっておらず、さらには最近ではエイサーの練習や道じゅねーについての地元からの理解も少なくありつつあるという危機感が、エイサーを担う各青年会など関係者の間では年々強くなり、懸念は隠せないというのです。

そこで、エイサーについて地元県民をはじめ、観光客の方々にも、あらためてエイサーへの理解を深めてもらおうと、今年はエイサーシーズンに合わせて現在(9月21日まで)、沖縄市立郷土博物館で『沖縄市のエイサー・伝統の継承者たち』と題した展示会を開催しています。

またこの機会に、多くの方にエイサーについての知識も深めてもらおうと1957年に行われたエイサーコンクールの写真や、現在のエイサー衣装や道具、練習風景・旧盆の道じゅねー・祭りの映像や写真など、貴重な資料などを公開しています。

先日(8月28日)、この企画展に合わせて、エイサーを担う各青年会の現状、悩み、などエイサーの抱える課題について話し合おうと、
パネルディスカッション『これからのエイサーの継承について』が沖縄市立郷土博物館の主催で、沖縄市文化センターで開かれました。

会場には地元住民をはじめ、青年会のメンバー、自治会、沖縄市の職員や沖縄芸能関係者ほか、県外のエイサーファンまで駆けつけるなど、約100人が参加。

オープニングは、地元沖縄市の越来(ゴエク)青年会によるエイサーが披露されました。

熱い視線が集まる檀上のパネリストには、沖縄市青年団協議会会長・川井田 一馬氏、琉球国祭り太鼓 創設者・目取真 武男氏、沖縄県立芸術大学教授・久万田 晋氏、沖縄市観光協会・金城 論氏、名桜大学教授・宮平栄治氏の5人と、元エイサー会館館長・仲真良彦氏がコーディネーターで登場し、青年会が直面している苦悩と地域との関わり、
継承問題、また観光とエイサー、旧盆とエイサー、全国へのエイサーの魅力の広がりなど、現状問題が活発に話し合われました。

エイサーをする青年会は苦悩を抱えています。いくつかあげられた悩みをまとめてみると…
1)伝統的な行事なのに「練習の音がうるさい」という周辺住民からの苦情が増えて、思うように練習できないとの事。具体的にはどういうことがあるのだろうか?

「青年会はエイサーの練習を各地区の公民館でやることがほとんど。
かつては夜遅くまで練習できたのだが、最近は夜10時までに終わらせることに必死。時間が限られてしまうことで練習不足が危惧されている。
また音がうるさいという苦情に加え、若いメンバー(高校生など)が多いチームには、学校関係者保護者から帰宅時間などに対して苦情もあるので、どうしても時間の制限がかかる」。


2)多くの青年会でエイサーへの参加が減少し継承者不足が悩み。人材確保が難しい。人気のエイサーだが、やりたい人は増えないのだろうか?

「現状はなかなかメンバーがそろわないところが多い。沖縄市内の全小学校の9割に沖縄市の各青年会がエイサー指導に出向いて、子供たちとエイサーとのふれあいを持ち、関心や興味を深めるなど、学校とも協力して理解を深め将来へのエイサー継承育成もしている。
しかし、どの芸能文化とも同じように継承については大きな共通課題。沖縄におけるエイサーは、自分の地域のエイサーに参加する意義や魅力をもっと広めないと、大事な地域の歴史としての継承が難しい時代になってきている」。


3)旧盆の道ジュネーも最後まで出来ないことがあり、苦悩しているという。どういうことだろう?

「途中途中で時間がずれこんで、予定の場所まで進めなくても、深夜12時までに終わらせるようになった。音がうるさいなどの住民環境への対処とはいえ、地域をまわる最後の場所まで行けないことは非常につらい。
旧盆のエイサー道ジュネーに対して、ぜひ理解を深めてもらいたい。観光エイサーとは違い、伝統行事としての先祖への想いをこめて廻るエイサーだということを」。


4)“1年中エイサーが観られる?”という勘違いも多い。

「観光客からは冬でも、また急に明日はエイサーは何時からどこであるか?など、1年中エイサーが見られると思われていることが多くあり、沖縄市の観光協会へは、いつでもエイサーがみれると思ってか、問い合わせは後を絶たない。
観光施設で披露しているエイサーと地域の伝統エイサーの違い、旧盆エイサーの意味をまだまだ知られないことが、誤った観光情報になっている」。
など、たくさんの苦悩があげられ、時間いっぱいまで「エイサーを継承する為にどうしたらいいのか?」と、課題をまず出し合うことから皆で話し合われました。

特に、県外の方には沖縄独特の「青年会」のあり方がわからないのではないだろうか? 旧盆にエイサーするのは各地域の「青年会」で先祖送りのためのエイサー。先祖を敬う心をエイサーで表現しています。
観光施設やイベント祭りなどに演舞する団体・たとえば、世界にも支部を持つ『琉球国祭り太鼓』は青年会ではありません。
青年会は地域(自治会)と共にあり、エイサーだけではなく、地域でのボランティア活動にも参加します。

このパネルディスカッションの最後で行われた質疑応答で、沖縄市のある地域の区長さんが発言された言葉はとても印象的でした。
「青年会は、“エイサー青年会”では無い。日頃から、地域活動にもきちんと参加すれば苦情は出ない」と。
青年会は地元地域と共にあるからこそ。そう、地元があるからこその青年エイサーなのです。

あらためて、地域づくりの糧として担うエイサーの大いなる継承の意義も知ってもらい、重要な地域の力であることも(役割も)忘れてはならない、そういう事を皆で確認できた貴重なシンポジウムとなりました。

エイサー関連記事リンク集:
「エイサー対談」http://ryuqspecial.ti-da.net/e2225049.html
「エイサーのまち宣言の沖縄市2008」http://ryuqspecial.ti-da.net/e2173509.html
「エイサー起源」http://ryuqspecial.ti-da.net/e2251010.html


(文+写真: 吉澤直美、編集: KUWA、取材協力: 沖縄市立郷土博物館
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