「沖縄のカタチ・おまじない」(比嘉淳子)

ryuQ編集室

2008年07月28日 09:00


あれは、5年前になるだろうか。
沖縄の冬特有の強風「ニンガチカジマーイ」の吹く日、新築したばかりの家でぬくぬくとコタツでみかんを前にして幸せなひと時を過ごしていた。
コツっと、何やらガラスに当る音がする。
体を起こして音のほうへ視線をむけると、鳥がガラス戸に当っては落ち、当っては落ちを繰り返している。哀れに思いガラス戸を開けるとその鳥が勢いよく部屋に侵入してきた。

子ども達は大喜び。しかし、年寄りは大騒ぎになった。
「スーサーだ。厄だ!厄がいっちょーん!(「厄が家に入ってきた!」という意味)」
スーサーとは「ヒヨドリ」のこと。
スーサーは庭のギャングといわれ、みかん、ピーマン、毛虫だろうが何でも食べてしまう。スーサーがいる庭には他の鳥が住み着かないといわれるほど貪欲な鳥である。そのスーサー、後になって知ったのだが、「大厄」を運ぶ地獄の使者として嫌われているという。

すぐさま私は「スーサーによって穢れた女」のレッテルを貼られ海へ連行された。
真冬の荒波に身を任せ、スーサーが運んできた「大厄」を海に流し身を清める、というのだ。いわば「簡易禊」(みそぎ)である。
到着した海は「波の上海岸」。
学生時代のテリトリーで、甘酸っぱい思ひ出で胸キュンな海。なのに、何の因果でこの真冬に立っているのだろうか。
家族は暖かい車内から私の様子を(面白がりながら)伺っている。
ええいっ!ここで「入水」しなけりゃ女がすたる。「オンドリャ〜!」っと足を突っ込んだ。
南国の海とはいえ、季節は冬。みるみるピンク色だった足は紫色になり、心臓がいったん止まった。(ような気がした。)

「ナニをしているんですか!!」
振り向くと、一見して観光客だとわかる上品なご夫婦が私に向かって走ってくる。
「何があったかは知らないが、必ずいい事は来るもんだよ」と、初老の紳士。
傍らのご婦人がピンク色のストールをかけてくれた。
「ジバンシーだ。」

全然関係のない事を考えている私に、一生懸命になって人生のすばらしさを語ってくれたあの時の方、その節はお世話になりました。
イロイロあって「入水」しましたが、アレは「おまじない」だったんです。

「禊」が不成立だったせいか、その年の夏、信号待ちをしている私の後方から車が突っ込んできたというオマケがあった事を付け加えよう。

以来、「厄払い」という言葉に異常に反応を示す体質になり、我が家を包囲するよう「厄を祓う植物」と「福をたらふくもたらせる植物」をわんさか植え、何とか今日に至っている。

今回に限り「厄を祓う植物」をご紹介しよう。
「やつで」という植物。別名「テングノウチワ」。“八手(ヤツデ)”の由来は指がいっぱいあるようだ、というところから。

よくパキラに間違われるが、「ウコギ科」の常緑植物で、暖かいところの海の近くを好むが沖縄の太陽では葉焼けを起こしやすいので我が家では裏戸の軒下に鉢植えで置いている。
「魔よけの専門家」に聞けば、どうやら玄関脇に植えたほうがご利益はあるらしい。

しかし、我が家の玄関には“植物界のセコム”といわれる「観音竹」が私の肥培管理の元スクスク育っているから割り込む隙がない。そう、玄関には泥棒よけに「観音竹」が活躍する。
怪しいものが近づくと人の姿に化けて追い返すそうだ。

門の脇には「モクビャッコウ」石敢当の代用に植えてある。
宮古島の友人から門には「くちなし」がいい「口難を解くから」と勧められたが、あれは蚊が好む植物で、しかも、先の“魔よけの専門家”に言わせれば「子どもが家業を継承しなくなる」と聞いて止めた。別に大した家柄ではないが、我が家の子ども達はこの家をこよなく愛しているので、子ども達の夢に1票。で、その代わり「桃の木」を「百百(もも)=百代までも」にちなんで植えたのだ。

ザッと挙げただけでもなかなか意味深い。
私には見えない世界だけれど、ヤナムンの目からは「有刺鉄線包囲の家」に見えているのだろうか…
アレから数年。今年の初夏、我が家の玄関上の雨どいにスーサーが巣を作った。
縁起が悪かろうが可愛いヒナ鳥に、孫を見るようで追い出せない。

専門家に聞いてみた。すると、
『とっても大吉』!!

家の中に入ってくる鳥は、『お知らせごと』を持ってくるそうで、その年の凶事を事前に知らせてくれるからかえっていいことだ、というのだ。
巣を作る事は土地の神様に歓迎されていると付け加えてくれた。
「益々繁盛する」らしい我が家。内緒で宝くじ10枚買いました。


プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社)が発売中。

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