ryuQ100花・1月号『クワディサー』(モモタマナ)

ryuQ編集室

2008年01月28日 09:00


2005年に出版した『沖縄の庭を見直そう 琉球ガーデンブック』(ボーダーインク刊)のきっかけになった木だ。
それまで沖縄の植物に関する云い伝えはおもむろに聞いてはいた。
どれも皆「フーン…」という感じだったが、ある設計士から「クワディサーは、家に植えるのを昔の人は嫌がりましたよ。人の泣き声を聞いて大きくなるんですもんね。」
こともなげに言ったその台詞が衝撃だった。水や肥料ではなく、泣き声を聞いて大きくなるぅ!?
そういえば、お墓に植える木だってウチのバァちゃんも言っていたなぁ。
お墓でシクシク泣く未亡人を見ながらうれしそうに大きくなるのだろうか…?
い、いやらしい木だ。
そう思いながらも、無性にこの木について取材をしたくなった。
こういう時は、お年寄りに聞くのが一番!

てなわけで、お年寄りに遭遇する確率の高い病院はもちろんのこと、もやしのひげをとっている商店のおばぁさん、御嶽でウートートーしているおばぁさん、私がお年寄りと認定した方々に直撃インタビューをした。「クワディサーって…」の質問に「ああ、泣き声を聞く木ね」って。
「!」うれしかった。

クワディサーは、別名『ももたまな』『コバテイシ』
シクシン科の大木で、落葉樹である。手の平大の大きな葉をつけ、枝は横に広がる性質を持っている。横にかなり広がるので緑陰樹として墓地によく植えられ、沖縄の強烈な太陽光線からご先祖様をお守りしているのだ。沖縄では、旧暦の3月の清明の季節に「シーミー」という行事が行われる。一族郎党でお墓を清掃し、その後お墓の前でご先祖様らと楽しい会食をするのだ。お弁当を広げて生きている人もあの世の人もピクニック気分でお墓で過ごす行事である。

その年、私はさっそく仕入れたばかりのネタを親戚一同に披露したくなった。
口を開こうとしたそばから叔母が、
「あの木はクワディサーといってね、33年忌が終わったら骨を骨壷からこぼして土に返すさーねー、その骨の栄養を吸って大きくなるからお墓のクワディサーはご先祖様と一緒だよ。みんなを見守っているよ。大事にしないと。」
「へええ!!」。
今度は、高校生だった娘が、
「先輩が学校のクワディサーには、どんなに暑い日でも3年生になったら近寄るなっていってた。泣き声が好きだからって。受験には泣きたくないジャン!」
「へええ!」
わが娘よ!案外かしこいじゃん!ってな親ばかな事を考えつつ、こりゃ記事にしようと思い立ったわけですな。

沖縄の植物の云い伝え。
クワディサーをきっかけに芋づる式でネタが出てくる出てくる…。
庭だけじゃなく、沖縄の植物は本土では、観葉植物として流通しているので、植物を選ぶ際の参考に一冊いかがでしょう。

それからもクワディサーという木は、いろんなところで目に付くようになった。

健康食品店の前で、
「悩む男性の救世主!コバテイシ(クワディサーのこと)強い男を作ります。夜の自信におススメです!」

民芸店のまえで、
「モモタマナ(くわでぃさーのこと)染め。シックな茶色が落ち着きを感じさせます」

そして、昨夜、
「ウルトラマンの顔ってさ、クワディサーの実をデザイン化したんだよ。」
新しいネタである。

ウルトラマンの生みの親・金城哲夫氏は、こよなく平和を愛し、争いを否定した人だったそうだ。

金城氏は、ウルトラマンの顔を作るとき、故郷沖縄で見た「クワディサー」の云い伝えを思い出したという。たくさんの想いを込めてクワディサーの実に目をつけたのだ。

争いで泣き声を増やして欲しくない。
正義の味方こそ強い男である。

子どもへ正義のメッセージを伝えると共に、大人へは平和のメッセージを伝えたかったのである。
人の泣き声を聞いて大きくなったクワディサーの実は、強い正義の味方・ウルトラマンに変身し、人の泣き声を「うれし泣き」にしたくてこの世に生まれてきたヒーローなのだ。

ウルトラマンの最終回から数十年、クワディサーつながりでようやく見えてきたウルトラマンの素顔。
子ども達にも伝えていかなくちゃ!


プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社)が発売中。


(協力:oNLINE 植物アルバム)

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