ほんとうの那覇大綱挽

ryuQ編集室

2008年10月17日 09:00


毎年10月10日前後に行われている那覇大綱挽は、ギネスブックに認定された世界最大を誇る大綱挽として知られますね。ところで綱挽(綱引き)といえば、元来は稲作や水の神様とも関わりがあるといわれ、起源は神代の頃からともいわれます。
「綱は神代の昔から、悪気さらしの夏はらひ、勇み争い引くためし」と綱口説にも謡われています。
ですので綱挽といえば、稲作との時期にも関係し旧暦6月のウマチーの頃や旧暦8月15日の十五夜祭りや豊年祭などで行われたりするものですが、ところで、現在の那覇大綱挽はなぜ新暦の10月10日頃に行われているのでしょう?

そのような関心からはじまり、何かを呼び寄せるかのように導かれたのが、ちょうど只今開催中の『那覇大綱挽と10・10空襲(副題:大綱に込められた平和への願い)』展の那覇市立歴史博物館に辿りつきました。学芸員のかたに詳しくお話を伺いながら、那覇大綱挽がただ大きいだけでなく、王朝時代からの歴史や、そしてまたこの10月10日という日取りとの関わりの意味についても、あらためてご紹介いただくことになりました。

それは遡ること戦時中の昭和19年(1944年)10月10日。米軍からの空爆により、王朝時代から築かれてきた商業のまち那覇の90%が焼失してしまった『那覇十・十空襲』の日でした。
戦後、復興の象徴にしようと昭和46年(1971年)に当時の平良良松那覇市長をはじめ那覇市民有志が立ちあがり、戦前(昭和10年)まで行われていた那覇の大綱挽を古式の姿で復活させようとした街興しのプロジェクトだったのです(古式での復活ではないがその10年前にも一度行われている)。そこで10月10日の週の日曜日が那覇大綱挽の開催日となりました。

近年、振替休日について国民の祝日に関する法律の改正が行われたこともあり、最近では「10月10日」「十・十空襲」「那覇大綱挽」という意識が結びつきにくくなってきているのかもしれませんが、「忘れてはならない日。そして復建の日に」と復活した当時の想いを、そして大綱復活の原点を、もう一度思い出す機会にしてみませんか。

それでは、戦前まで行われていた「那覇大綱挽」とはどのようなものだったのでしょうか。
那覇大綱挽の歴史を知ることができる1枚の絵があります。それが歴代の琉球国王に仕えた絵師・慎思九(泉川築登之親雲上寛英)が描いた『親見世綱之図』(おやみせつなのず)。
原画は戦災で消失し、現在残っているのはモノクロ写真からの複写のみですが、その一枚が、絵画に描かれている唯一の記録といわれてきました。

そしてこの度、もう一枚の絵が一般公開されることになりました。
初公開されたのは、絵画『那覇四町綱之図』(なはゆまちつなのず)。先にご紹介した那覇市歴史博物館の企画展の中で、現在展示中です。(~11/12まで)

昔の様子がカラーで描かれているので、当時の旗頭と現在の旗頭との違いやまた現代にも受け継がれている旗頭を知る事ができ、衣装なども今にはない特徴があったりと、絵の中に描かれている人物や風景から様々なことを読み取ることができます。
例えば絵画に描かれているは、明かりを灯す『炬』(松明)を持った人物画から、今とは違いかつて那覇の大綱挽(那覇四町綱)は夜に行われていたことが伺われます。(現在は昼間に開催)

現在は久茂地交差点付近の国道58号の中央分離帯を外して行われていますが、戦前までは開催年によって場所が代わり、親見世ぬ前、通堂大通り、辻の中道、若狭町馬場、で行われていたといいます。そのうち、親見世ぬ前で行われた記録が『親見世綱之図』に描かれています。(推定1839年の綱引を描いたといわれています)

そしてまた、この2枚の絵画に共通して描かれている桟敷席からは、いったい誰が那覇の大綱挽(那覇四町綱)を見物していたのでしょうか?
綱挽が行われた親見世ぬ前の“親見世”とは、那覇四町の民政を司ったところでもあり、またその近くには、薩摩の在番奉公所がありました。那覇の大綱挽が、薩摩からの在番奉行のために行っていた記録もあることから、1609年以降の琉球王朝時代の大綱は、稲作の祭祀儀礼としてではなく、現在のように特別イベントとして行われていたというのも注目ですね。(当時の桟敷席からは薩摩の在番奉公や役人たちが見物していたようです)

またかつては旧暦の六月頃に行われていた大綱も、ある時期(1812年)を境に、特別な時など、例えば在番奉公が赴任した年や祝賀などに不定期で行われるようになったといわれます。
そのような貴重な絵画の中から、時代を越えて伝わってくるものもあれば、また那覇の大綱挽の戦前から復活までの貴重な記録写真の展示からも見えてくるものがあると思います。

学芸員のかたもこう語ります。「那覇大綱挽を復活させた当時の、旗頭制作に取り組む方や綱を編む方々の姿をみていると、ひとつひとつに想いを込めて作られてくられているのが判るくらいに、写真から伝わってくるものがありますね」とのこと。

那覇の大綱挽の原点を見つめることができる『那覇大綱挽と10・10空襲』展は、11/12(水)まで公開されています。

会場:那覇市歴史博物館(パレットくもじ4F)
時間:10:00~19:00(木曜休館日)
URL:http://www.rekishi-archive.city.naha.okinawa.jp/

(文+写真: 桑村ヒロシ、取材協力: 那覇市歴史博物館、比嘉晃様、はてるまこう様)

関連記事