この夏、キングレコードから150タイトルの「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」という世界の音シリーズが一挙に発売された(7/9発売)。
伝統音楽〜ポピュラー音楽、インストゥルメンタル〜歌ものまで、様々な形で収録されたシリーズの中で、沖縄からも「古典音楽〜西江喜春、玉城正治」「琉球宮廷楽劇・組踊」そして
「沖縄・宮古の神歌」の3タイトルをリリース。今回は「沖縄・宮古の神歌」の収録をしたワールドミュージック・マエストロであるアーティスト・久保田麻琴氏より、CD発売についてのコメントをいただくことが出来たのでご紹介します。
久保田麻琴氏は、ジャズやブルース、ニューオリンズやロック、そして世界の国々の音を探求し続け、70年代半ば・2000年(詳細は後記述)とそれぞれの時代の沖縄音楽との接点を持つアーティスト。
そんなバックボーンを持ちながら、ハワイやバリといった土地の聖なる歌やメッセージもフィールド・レコーディングとして経験もあったことから、今回、宮古島での神歌のレコーディングの立会いは自然な流れによるものだと思われる。
今回のこの収録に関しては、民俗学・宮古研究を行っている上原孝三氏の協力もあり、また同氏と佐渡山安公氏によってアルバムのブックレットでこの神歌について解説されている。
解説によれば、5曲は御獄(集落の聖地)と家で謡われるもの、1曲は御獄のみで謡われる歌が収録されているほか、出産の祝い歌、子供の誕生、新築祝い、麦粟の初穂祭りで謡われる祈願ものという全9曲で構成されているが、現在では謡う機会が失われつつあり、また覚えている人も少なくなってきた。
今回収録に参加した3名(高良マツさん、長崎トヨさん、村山キヨさん)は、その地域に代々受け継がれる伝統的な年中祭祀の女性祭祀者(ツカサンマ)として属していたが、現在、この伝統祭祀の存続が危ぶまれている。
歌い手たちはその役割を終えて30年も経つというのに、歌が書かれているノートを見ずに歌えるという。その記憶力とかつての時代の歌い方を伺える貴重な記録となったと言えそうだ。
では、この宮古・西原地区のシマ(集落)の繁栄を祈願する神歌が、今回どのような経緯で収録されるに至ったのか、いくつか質問をさせていただくことに。
——久保田麻琴さんは沖縄とは何十年も接点のあるなかで、今回は宮古島の神歌を収録とのこと。また様々な国の音楽と接してこられてきましたが、沖縄・宮古の神歌にどのような印象を持ちましたか?
久保田麻琴:沖縄音楽の大きなルーツの一つであり、多くの人たちにとって、いまだ未知のまま滅び去ろうとしている神歌。
今回は宮古島・西原の元ツカサ(神行事を司る人々)や協力者のおかげで、発表が実現したことはとても喜ばしいことです。
神歌は沖縄民謡や島唄とも違う深い響きがあります。天に捧げられる歌の強い響きと云っても良いのではないでしょうか。宮古や沖縄の方々にも是非聴いていただきたいですね。
——また、収録に関することや参加した方々とのエピソード話などあればお願いします。
久保田麻琴:宮古島の西原地区の高齢の方々に唄っていただくということで、出来るだけ近場で録音を行いたかったのです。地元のひよどり保育園の園長先生が協力的で、場所提供や演者との間のコミュニケーションなどに多大な助力をいただきました。
しかし何より、おばぁ達自身の決断が無かったら最初からありえないことでした。平均年齢90歳の3人の歌い手は、6時間以上も床に座って唄い続けてくれました。
薄暗くなって、神唄をひととおり唄い終わった後でも、「これを唄わなければやめられないさ。」と云い、(彼女らいわく)“若い男女のロマンスの歌”といって毛遊びの歌で楽しくしめてくれたのが、素晴らしく印象的でした。
——また改めて伺いますが、久保田麻琴さんと“沖縄”とはどんな関係でつながっているのでしょうか?
久保田麻琴:70年代半ばにマルフク・レコードが発表した喜納晶吉とチャンプルーズの「ハイサイおじさん」に出会って以来、深いインスピレーションを得たのが沖縄の音楽でした。
そのことが自分の音楽の方法論やプロトタイプにつながったのだと思います。
名曲「花」のオリジナルヴァージョンをライ・クーダーらと収録したチャンプルーズの2ndアルバム「ブラッド・ライン」以降、ご縁が薄れたオキナワでしたが、何故かまた復活しそうな最近の動きに自分も驚いてます。
これから先何年かのうちには、沖縄や日本に関した音楽制作をするかもしれません。
70年代半ばに、喜納晶吉とチャンプルーズの「ハイサイおじさん」、2000年4月には、照屋林賢(りんけんバンド)と細野晴臣のユニット「KARABISA(カラビサ)」(Rinken Records)を発表。
そしてまた沖縄や日本の中に意識を向けた音への興味が「To Be Continued、次に続く…という感じでしょうか。」ともコメントを追記いただいた。なんとも楽しみな展開。こちらはぜひ首を長くして待ちたい。