多良間島の節祭『スツウプナカ』[見聞録+体験記]

ryuQ編集室

2007年07月04日 00:00


宮古島と石垣島の中間に浮かぶ多良間島。多良間の祭りといえば豊年祭『八月踊り』が知られますが、もうひとつの豊年祭ともいえる祭祀が『スツウプナカ』(村指定無形民俗文化財)といわれる節祭。前編ではその“スツウプナカの起源”を辿りましたが、後編ではスツウプナカの伝統行事を実際に見聞きし、現場では貴重な体験もさせて頂くことができましたので、レポートしてゆきたいと思います。

いきなり取材現場に直行する前に「この島で、まずご挨拶(お参り)するお宮などはありますか?」と、今回のガイド役となる多良間島観光サービスの富盛さんにご案内頂いたのが多良間神社と運城。そこで「この島の祭祀『スツウプナカ』を取材させて頂きます」とお参りし、気持ちを整えてから取材へと伺わせて頂きました。(そのあと虹が、東と北西の空に2本も)

八月踊りの際は、字仲筋と字塩川と大きく2つに分かれた会場で行われるのですが、スツウプナカではさらに細かく8区に分かれ、祭場も2区がひとつとなって計4箇所で、ほとんどの行事(一部を除く)がほぼ同時に行われます(表1参照)。
またそれぞれの区の中で、役割分担が分かれているのです(表2参照)。

■島の人たちの為にある神聖な伝統行事
祭りとはいっても『八月踊り』のお祭りの雰囲気ともまた違い、島の人たちの為にある、厳かでとても神聖な伝統行事だということ。

祭祀『スツウプナカ』とは、スツ(節)+ウプナカ(神を称える)。
毎年旧暦の5月頃、壬立(みずのえたつ)には、神を祀る『カンガウェー』。
癸巳(みずのとみ)には、人間側の祭り『ピィトゥガウエー』と、2日間にわたり行われています。
(3日目の朝にも行事があり、また午後には反省会と来年の役決めがあります)

祭りの前日に字中筋の集落を歩いていると、どこからか神歌が聞こえてきました。
近年では、カセットテープで神歌を流している地域もあるといいます。でもここで聞こえてくるのは生の歌声。
その歌声がするほうへと近づいてゆくと、第2祭場・フダヤーの老人座の方々が座長の家に集まり、ニル(神歌)の練習をしているところでした。
見学したいという急な申し入れにもかかわらず、有り難くも座敷にまであげて頂き、この祭祀をはじめたウイグスクカンドゥヌを讃えた神歌『ウイグスクカンドゥヌニル』を間近で聞かせて頂くことに。
同じニルであっても、集落によっては歌詞も違えば、また45番まで歌うところもあれば50番を越える地域もあるのです。

また、この伝統行事の中でよく知られている歌は「ヤッカ ヤッカ」(八重ね 八重ね) の囃子歌で知られる『ユノーレガ』ですが、集落によっては必ずしも「ヤッカ ヤッカ」とは歌わず、第4祭場・アレーキの場合は「ヒーヤ!ハーヤ!ハーイ!」という囃子で締め括るのでした。

(↑アレーキの『ユノーレガ』を試聴する。※再生ボタンをクリック)

また、アレーキの場合は、『暁の願い』という行事についても、本来行われていたように24:00過ぎから執り行っているのでした。それだけではありません。
4つの祭場のうち、このアレーキにしか残っていない儀式もあれば、元々はカデカルヌウヤの管轄地域だったということなどのほか、
さらに注目すべきは、スツウプナカのはじまりはアレーキからだったという口碑伝承があるともいいます。

■男性を中心として祭祀集団となる島の節祭
また、特にこのお祭りが特徴的なのは男性を中心として祭祀を司るというところが、琉球諸島の中でも稀な伝統行事だということに注目です。
だからといって女性がまったく参加しないわけではなく、2日目『ピィトゥガウエー』の日には、司(神女)も運城御嶽、泊御嶽、塩川御嶽、多良間神社、普天間御嶽、嶺間御嶽から招待され、各祭場への訪問には村長よりも行列の先頭を歩いてゆくのです。

また祭りの準備の段階では、現在は、供番座の神酒(ミス)作りで協力があるほか、供え物の料理作りなどでも女性も準備に加わっている区もありました。

かまぼこ作りでは、平べったい通常の大きさのかまぼこのほか、細長いかまぼこもあり、第4祭場・アレーキの中老座(この区では供番座も兼ねる)でお話を伺うと、
「浮遊霊や邪鬼が、神様用の供え物のほうに手を出さないようにと、細いほうを祭場の隅に置くんですよ。
そうすると不思議なことに、ほぼ100%魚肉かまぼこなので犬も猫も大好物なハズなのに、浮遊霊のほうの細いかまぼこには一切手をつけないんですよね」とのこと。供え物のかまぼこひとつとっても、しっかりと意味がありました。

■貴重な体験に感謝
また大事な神酒(ミス)作りでは、古い歴史の残る集落のナガシガーの場合、そこの聖地であるカー(井戸)の聖水を一升瓶ぶん使って作っているのです。
今回は、第1祭場・ナガシガーの担当のかたに一緒に連れられて、その井戸の水汲み場まで10m下へと降りてゆく経験をさせて頂きました。もちろん、神を祀る『カンガウェー』の時期を過ぎてからのことでありましたが、とても貴重な体験をさせて頂きました。10m近くも地下になれば、ひんやりとするものではありますが、その澄んだ空気感の中に神聖さを十分に感じ取ることができました。

また、貴重な体験といえば、第4祭場・アレーキの海人座の知念さんや本村さんをはじめ座の皆さんともご一緒させて頂き、追い込み漁を体験させて頂いたこと。やはり、初日の神へと捧げる『カンガウェー』の行事が過ぎてから、そして連日の大漁で十分に賄えるほどに目標を達成したということから、最終日であればということでようやく許可を頂くことができ、追い込み漁の体験参加をさせて頂きました。

とは言っても、その追い込み漁にできるだけ邪魔にならないように端っこで水中カメラを構えるくらいしか出来ませんでしたが、そのわずかな体験で気付かせて頂いた事としては、何よりチームワークの大切さ。この行事で賄う魚の水揚げ量をきちんと確保するため、海人座の方々は泊まり込みでその役目を果たしてゆくのですから。期間中は、食事から一緒になって行動し、団結力を高めてゆきます。

■スツウプナカの原点に、先人たちの智慧、そして宝
また最終日には、地元の多良間中学の1年生が総合学習の一貫として見学に来場していました。お父さんたちをはじめ、先輩がたが行ってきている島の伝統行事を間近に触れることで、将来、きっと誇りに思える宝物になることでしょう。

各座、各区、そして全体がこの行事を通して一体となってゆけること。先人達の智慧が、多良間には今も息づいています。
そして、「感謝の心を忘れる無かれ」と竜宮の神の使い言葉は、今も私たちに問いかけているのかもしれません。

追記:
多良間島から離れる日、普天間港近くの普天間御嶽に立ち寄り、ご挨拶しようと思ったところ、
そこには、前日の『ピィトゥガウエー』で昼から夜まで1日招待を受けていた司(神女)の塩川さんと垣花さんがお参りにいらっしゃっていて、
「あなたもお参りするのですか?」とお声をかけてくださり、
「はい。無事取材ができたことのご報告と御礼に」と告げると、
普天間御嶽の中へと通して頂き、お香まで立てて頂きました。
この巡り合わせに、そしてまたお世話になった皆様に感謝。

感謝ではじまり、感謝で終わることができ、
多良間島滞在の貴重な数日間を過ごすことができました。

(取材協力:各字の皆様、多良間島観光サービス様、民宿丸宮様
 参考文献:『多良間の文化財』『多良間村史』
 文+撮影:KUWAこと桑村ヒロシ )

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