南島詩人・平田大一:シマとの対話・第37話『消費する文化…

ryuQ編集室

2008年07月16日 09:00


〜沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在〜『シマとの対話』第37話

南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。(毎週水曜日更新)

今の子ども達は恵まれすぎている。
お金があれば全てが揃う贅沢、
チョイスをすればいいだけの現実。
今の子ども達は生まれつきの「消費者」なんだ。

とある、トップ・マネージメント・セミナーでの
とある、企業の社長の意見に
ハッとさせられた。

会議の統一テーマは
「経営力と現場力が高める企業の生産性」

何故?僕が招聘されたのか?
統一テーマを眺めながら
じっくりと考えながらの新幹線。
一流企業の役員幹部が対象の経営者セミナー
の特別講師に招かれたんだ。

僕は子ども達が地域の伝承や伝説を
題材にして舞台に立つことで
地域を知り、自分を知り、やがては誰かに喜びを届ける
人間になっていく!
子どもが変わることで、大人が変わり、遂にはマチも変わる!
とその日、力説した。

日本を代表する企業の皆さん約150人。
歳を重ねた先輩達は「この国の未来」「次世代への道標」を
気にかけていた。

ビデオの中の子ども達「肝高く!」舞踊る。
演じ終わった後の挨拶の中での
「お父さん、お母さん、ありがとうございました!」
というコメントに、場内から期せずして拍手が起こる。
中には、目頭をおさえる人もいる。
講演会は大成功だった。
あの子達のお陰だった。

懇親会での語らいの席で興奮した表情の
その人が言ったんだ。

「今の子ども達は恵まれすぎている。
 お金があれば全てが揃う贅沢、
 チョイスをすればいいだけの現実。
 今の子ども達は生まれつきの『消費者』なんだ。」

一息つくと、続ける。

「私の子どもの頃はね『生きる』だけでも精一杯。
 今とは価値観がまるで違うんだよな。
 でも、今がそう言う時代だからこそ!
 だからこそ、君達の活動が貴重なんだよ。
 『消費者文化』に生きるあの子達が、
 立派に『生産』しているんだもの。
 感動という名の『こころ』の生産活動をしているんだもの。
 誰かに、ありがとうと言われる喜びを
 誰かに、ありがとうと言える歓喜びを知っているんだもの。」

トンボ帰りの新幹線。
この活動を始めて十年目。
僕は深い想いで車窓から外を見た。

「平和で豊かな今が悪いんじゃないはずだ。
 所詮、こういう機会を作り出せない大人の僕たちの
 責任が大きいだけなんじゃないか。
 僕は、もっともっと多くの子ども達に出会いたい!
 そして語りかけてあげるんだ。
 『タフになろうぜ!したたかに!
 遠慮しなくていいんだ。夢を語っていいんだ。
 出しゃばっていいんだ。自己主張が激しくってもいいんだ!』
 大きな声で、自分の存在を叫ぶんだ!」

そして、遠くのシマで
今日も健気に稽古をしている
南の島のカケラ達に会いたくなった。


僕は自分の道を歩いている。
自分の道を堂々と歩いている。
でも、それは
まぎれもなく!
あの子達のお陰だ。


    南島詩人・平田大一

Profile
平田大一(ひらた・だいいち)
南島詩人・演出家・那覇市芸術監督
1968年11月7日沖縄県竹富町小浜(こはま)島生まれ。

進学先の東京で、アートユニット「I・N・U」に参加、自作の詩を朗読する舞台活動を開始。卒業後は生まれ島「小浜」に戻り、アーティストへの楽曲・詩の提供、実家の民宿を拠点に「キビ刈り援農塾」をスタートさせるなど、地域と文化に根ざした幅広い活動を行う。
2000年から与勝地域の子供達による現代版組踊『肝高の阿麻和利』の演出を手がける。
2005年3月に勝連町・きむたかホール館長を卒業、4月11日に有限責任中間法人TAO Factoryを立ち上げ、代表理事に就任。同年、那覇市芸術監督に就任。
うるま市、浦添市、八重山、金武町、那覇市、5つの地域の子供たちのための舞台を手がけるほか、毎年、新作舞台を精力的に制作。沖縄県内はもとより、県外、国外にも支持者を増やしている。
代表作に現代版組踊『肝高の阿麻和利』、現代版組踊『大航海レキオス』など多数。著書は詩集『南島詩人』、『歩く詩人』(冨多喜創)。

・平田大一ブログ『シマとの対話』:
http://hiratadaiichi.ti-da.net/


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