第4話『瑞兆(ずいちょう)』(南島詩人・平田大一)
〜沖縄の過去と未来について考えるとき、僕はシマと対話する。シマとは、僕にとって老賢者のような存在〜
南島詩人・演出家として活躍する平田大一。県内外を縦横無尽に走り抜け、骨太な活動を続ける日々の中で、思索の森を歩き、刻む、真実の言葉たち。
『シマとの対話』第4話(毎週水曜日更新)
「幸運」を手繰り寄せたいのなら
「きざし」を知るべきだ。
その鳥は「カンムリ鷲」と呼ばれていた。
「島の誇り」のような鳥だった。
いつも高い空に一羽、甲高い声で
時折鳴いては弧を描いて優雅に舞っていた。
ある日。
空にいるはずのその鳥が電線にいた。
寒い島の冬の夕方のことだ。
ひゅるひゅると吹く寒風にぐっと耐えながら
ボロボロの羽を抱えるように一羽
何処か遠くを見ていた。
いつのも気高さが微塵もないくらい見た目はボロボロだった。
偶然、否!
明らかに何かの意思で僕とその鳥の眼差しが一瞬遇った。
刹那!大きく見開かれたその眼にドキッとした。
眼光は鋭く、でも優しく、僕をじっと見つめている。
僕の乗った車が通り過ぎるまでの間の一瞬の邂逅。
鳥の目は確かに「今」を生きていた。
ボロボロのその羽は全然恥ずかしくもない!と言った感じで。
通り過ぎてしばらくして
僕の胸に不思議な声が聞こえた。
その声は一言「前に進め…」と僕に囁いていた。
実は迷っていたんだ。
新たな挑戦のための決断を。
僕は、迷っていたんだ。
自分のするべき「使命」に気づきつつも
向き合うことがこわかったから。
1999年3月4日。
眼光鋭いその眼差しに導かれ
僕はシマを出ることを決意した。
カンムリ鷲。
僕の「瑞兆」の一つ。
前略 南のシマジマ
今朝見た虹は我が使命の証
何でもない物を
瑞兆(きざし)と思える
それが賢者の証
南島詩人 平田大一
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Profile:
平田大一(ひらた・だいいち)
南島詩人・演出家・那覇市芸術監督
1968年11月7日沖縄県竹富町小浜(こはま)島生まれ。
進学先の東京で、アートユニット「I・N・U」に参加、自作の詩を朗読する舞台活動を開始。卒業後は生まれ島「小浜」に戻り、アーティストへの楽曲・詩の提供、実家の民宿を拠点に「キビ刈り援農塾」をスタートさせるなど、地域と文化に根ざした幅広い活動を行う。
2000年から与勝地域の子供達による現代版組踊『肝高の阿麻和利』の演出、脚本を手がける。
2005年3月に勝連町・きむたかホール館長を卒業、4月11日に有限責任中間法人TAO Factoryを立ち上げ、代表理事に就任。同年、那覇市芸術監督に就任。
うるま市、浦添市、八重山、金武町、那覇市、5つの地域の子供たちのための舞台を手がけるほか、毎年、新作舞台を精力的に制作。沖縄県内はもとより、県外、国外にも支持者を増やしている。
代表作に現代版組踊『肝高の阿麻和利』、現代版組踊『大航海レキオス』など多数。著書は詩集『南島詩人』、『歩く詩人』(冨多喜創)。
・平田大一ブログ『シマとの対話』:
http://hiratadaiichi.ti-da.net/
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バックナンバー:
第1話『始まりの詩』
http://ryuqspecial.ti-da.net/e1820727.html
第2話『珊瑚の杜に月の舟』
http://ryuqspecial.ti-da.net/e1831135.html
第3話『天を衝く!』
http://ryuqspecial.ti-da.net/e1841074.html
第4話『瑞兆(ずいちょう)
http://ryuqspecial.ti-da.net/e1851371.html
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