『沖縄の神社』(加治順人著)
お正月の次は、またまたお正月。今年はひと月の間に、新・旧、ふたつのお正月があって、おもち屋さんも、お肉屋さんも、昆布屋さんも、とにかく忙しかったそうだ。新正月が過ごすことの方が多くなった沖縄県ではあるが、今も旧正月にこだわる糸満のことを持ち出さなくても、火の神、トートーメーに、「御願ぶとぅち」や旧正月の御願を家庭でするところは多い。
正月といえば、初詣。今年うちは家族で首里のお寺のいつかと、すぐ近くにある弁が岳で手を合わせた。弁が岳というのは、首里にある聖域のひとつで、琉球王朝ともゆかりのある場所だ。いくつかの拝所があるのだが、そのうちのひとつに「沖縄神社」というのがあることは、あまり知られていないようだ。僕らが行った時も誰もいなかった。神社と言っても鳥居があるわけでもなく、なにがしらの拝殿があるわけでもなく、コンクリートの小さな祠があるのみ。正月とかの行事の時のみ、入り口の階段あたりに、沖縄神社と書いた幟が設置されるくらいだ。僕も信心深く、というわけではなく、一番近くの拝み場所という認識くらいであった。その由来を深く考えることもなかった。
小さい頃から行き慣れていたのは、波上宮である。県内最大の神社で初詣の人出もかなりのもんだ。僕は七五三もそこでやった記憶がある。事務所の初起し(はちうくしー/仕事始め)は、識名宮にスタッフそろっていくのがここ数年の習わしである。ここは日頃社務所には人の気配がないのであるが、正月や例祭の時は神主さんがいるようだ。地域に親しまれている氏神様的雰囲気が漂っている。
とまぁ、なんだかあちこちに手を合わせているなぁ。県内にはいわゆる「琉球八社」と呼ばれる神社以外にも、神社、お宮はいろいろあって、考えてみれば、沖縄と神社というのはイメージ的にそんなに結び付かないようで、実は古くからいろんなつながりがあるはずだと考えていたら、手元にちょうどよい本があった。
現役の神主さんである著者が、沖縄の神社の成立、変遷の過程を、遙か琉球王朝時代(15世紀頃)から、明治以後の近代、そして復帰後の現在に至るまでを調べたのが、『沖縄の神社』(おきなわ文庫/加治順人著/ひるぎ社/2000年)である。大学院の修士論文をまとめた内容で、研究者としての視点できっちりとまとめられており、今まで何気なく感じていた「沖縄と神社」の違和感がなんであるかが、よく理解できた。
〈……それら沖縄にある神社と本土の神社とを比べると、何か違う雰囲気があることは、観光などで本土を訪れ、そこで神社を観てきた人なら多々感じることであろう。……中略……そして、そのように感じられる要因として様々な事が考えられるが、やはり沖縄がたどってきた歴史や文化そのものが、本土とは異なる道を歩んできたことが一番の要因ではないかと思われる〉(はじめにより)
著者はそこで日本から琉球に入ってきたと思われる「神社」について的をしぼり、この新しい信仰がどのようにこの地で受容され展開してきたかを明らかにしていく。
沖縄で古くからある神社・お宮の多くが、熊野権現が祀られているそうだ。現在の和歌山県が発祥の全国各地で信仰されている祭神だが、なぜそれが沖縄に入り受け入れられたのか。〈古来、熊野の地は(現在の和歌山県南紀地方)は「黄泉(ヨミ)」の入口とされ、祖霊が集まる死者の世界とつながるところだと信じられてきた〉そうで、さらに〈同時に熊野の地の遙か南海の彼方には、観音菩薩が住むとされる「補陀落世界」があるという信仰がひろまっていった〉。 一方琉球には、海の彼方に(地の底)神々や無くなった人たちがが居るといわれる楽土「ニライカナイ」信仰があった。つまり当時の琉球には熊野権現信仰を受け入れることのできる共通した神観念があったのではと、著者は指摘する。熊野から「補陀落世界」を求めて僧侶らが琉球へ渡り、もともとの沖縄の信仰と重なり合ったのではという仮説である(実際「金武観音堂」を設立したという熊野の僧侶・日秀の例もある)。確かに沖縄の神社の多くは、洞窟の上、もしくは境内に洞窟がある場合が多い。それはニライカナイ的世界への入口とも考えられ、また熊野権現信仰での地下にあるとされる「黄泉」への入口とも重なる。
古来から続く沖縄の神社と、もう一方で明治以降、国や県の政策の中で形成されてきた神社もある。現在弁が岳にある「沖縄神社」も実は、大正時代に首里城内に設立されたものだそうだ。祀られている祭神は、「舜天王」「尚円王」「尚敬王」「尚秦王」など琉球王と、琉球王国発祥の伝承に登場する「源為朝」なのである。へぇー。首里城が戦争で焼失した後は再建されることもなかったが、昭和30年代に、仮の場所として、弁が岳に設置されているということらしい。お正月の人気の無さにもそういう背景があったのだ。
他にも沖縄県下にある神社の成り立ちが詳しく説明されており、「沖縄の神社」もまた琉球の文化、歴史を体感する上で欠かせないポイントであることがよく分かった。数多くある「おきなわ文庫」に、またひとつお気に入りの一冊が増えた。
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プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/
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プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
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