2007年10月01日
棚からひと掴み・宮古編

好きなラジオ番組に山下達郎の番組がある。「日曜日の午後、いかがお過ごしでしょうか。山下達郎の……」という例のFM放送だ。マニアックな選曲ときめ細かい蘊蓄とどことなく落語口調のしゃべりをまったりとドライブしながら聴いている人は多いだろう。その中で時々やるのが、「棚からひと掴み」という特集だ。山下達郎個人の膨大な趣味のレコード・CDコレクションから、ランダムに「ひと掴み」取り出して曲を掛けていく、というやつ。適当にひと掴みしても一般的にはあまり知られてないが、おもしろい曲はたくさんあるよ、というコレクションへの自信もあるはすだが、本人が楽しそうに曲紹介するのは、うらやましい限りだ。
で、今回は、ワタクシも、我がボーダーインクの事務所の本棚の、沖縄関係資料の棚から県産本をひと掴みして、山下達郎の気持ちになって紹介してみようかと思いつきました。題して「棚からひと掴み 宮古本編」。どうして宮古? なんとなく、さいが。
まず一冊目は、『ドイツ商船R.J.ロベルトソン号 宮古島漂流記』。著者はというと、当然船の船長であるドイツ人・エドゥアルド・ヘルンツハイムさん。宮古通ならピンとくるでしょうね、キーワードは表紙にも書かれてある「博愛美談」。1873年、このドイツ商船は中国からオーストラリアに向かう途中、台風に遭遇し、宮古島の上野村(現在は宮古島市だが)宮国沖で難破してしまった。たくさんの船員が亡くなり、船もリーフに座礁し航行不能となったのですが、それを助けたのが上野村宮国の村人たち。サバニを繰り出し人命救助し、その後助かった船長たちを手厚く看護し、もてなした。結局彼らは、宮古の人たちの保護の元、琉球の船をもらいうけて、中国経由で無事本国に帰ることができた。この本は、その時宮古島に一ヶ月ほど滞在した船長が宮古のことを記した日記で、ドイツで出版されたものを、上野村が独自に翻訳して出したものなのだ。人種国籍に関係なく困った人を助けるという「博愛」の精神に感銘した船長は、当時のドイツ皇帝にその博愛主義の宮古人たちのことを報告した。すると皇帝は感謝の気持ちを表すために、なんとドイツ軍艦を派遣し宮古島に「博愛記念碑」をわざわざ建立したというのは、有名な「博愛」エピソードである。あれから上野村は「博愛」をキーワードにずっと村造りを続けてきて、とうとうドイツ村まで造ったのだ。この日記は、その原点ともいえる当時の宮古の人たちの様子や島の様子が描写されていて、とってもおもしろい。当時よくヨーロッパの船が難破していたらしく、片言英語の通訳やフランス語を喋る宮古役人が出てきたり、船長たちも感嘆するような美しい集落の様子などの描写など、140年ほど前の宮古島にトリップできるのがたまらない。船を正式に譲り受けいよいよ出航するという前の日、船長たちと宮古の人々はお祝いをする。
〈船に戻ると、この船がこれで私の船となったので、黒と白と赤の旗を掲げた。また、シェリー・コーディアルの酒の箱を空け、多くの客が訪れた。夜がふけるまでタイピンサン(宮古島のこと)のダラニエ(宮古の偉い人)、ドイツのビスマルクなど、さまざまな人やもののためにSAKI〈酒〉の杯を上げた。客が帰り、トゥンツェンたち(彼らの世話をした人たち)だけが船に残ったとき、何本かのSAKIを贈り、ひとりひとりにそれぞれ生姜の壺と三タールルのナムサをあげた。彼らはそれを来年試験のために琉球に行くときまでとっておくと言っていた。
夜遅くヌイチャンが戻ってきた。彼は返礼の贈り物として彼のパイプの束を受け取るように言ってきかなかった〉
編集・発行は「うえのドイツ文化村管理財団 財団法人 博愛国際交流センター 上野村役場」となっており、僕はドイツ村で買った。

棚からひと掴みの二冊目は、『おとーり 宮古の飲酒法』。宮古といえば、独特の酒の飲み方「おとーり」が有名だが(要するに宴会における永続的な宮古流廻し呑み)、まるごと一冊そのことだけが書かれているブックレットだ。これを読めば知らなくてもおとーりの全ての一部がよーく分かることになる。宮古の人にとって、おとーりは単なる酒の飲み方を表すものではないということを。「ぷからすゆうの会」というおとーりの世界を文化的、社会的、歴史的、家庭事情などなど様々な面から研究する、まことに宮古的なメンバーが企画発行している。執筆者は40名をこえる。で、とにかくおとーりの事だけを語るわけだ。
第一章「概説・おとーり」第二章「基礎・おとーり」第三章「社会の動き・おとーり」第四章「論文・おとーり」と、意外にまじめにおとーりの民俗・文化的な面から社会的な事柄までコンパクトにまとめてあり、大変勉強になるのだが、第五章「思い出・おとーり」あたりから、おごえっという感じになる。寄せられたエッセイのタイトルを見ると、「砂糖水でオトーリ」「上司の靴でオトーリ」「そば椀のオトーリで嫁をもらう」「犬に起こされる」。ねぇ、だんだんおとーりの怖さが感じられてくるでしょう。この本はおとーりをどうしたいのか。さらに読むと「カップラーメンの器に恐怖」「そば椀の純粋に恐怖」(ここでいう「純粋」とは泡盛純度100%のことである。宮古の人はそういう)「酒の飲み過ぎに恐怖」……。恐怖体験が綿々と綴られている。怖いけど、すごい。けど怖い。その後、第六章「提案・おとーり」第七章「自由意見・おとーり」と続く。基本的なスタンスとして、宮古の文化であるオトーリだがその過激な飲み方の弊害も見つめて、賛否両論ある中、真のおとーり文化を創出しようという、極めて高い志を持った本なのである。確実に言えるのは、この本を造ろうと思った面々は絶対おとーり廻しながら決めたに違いないということだ。
さて、三冊目は……というところで、時間になってしまいました。やっぱり足りませんでしたね。準備していた『宮古スピリッツ』は、また次の棚からひと掴みの特集の時にご紹介しましょう。いずれも出版社が出した本ではなくて、宮古以外で手に入れるのは難しいですからね。では、来月もセイム・タイム、セイム・チャンネルで。お相手は新城和博でした。
(文・新城和博)

プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
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この記事へのコメント
「宮古スピリッツ」の著者とは親しい風人ですが、
もうじき、新刊が出る予定ですよ・・・
宮古方言と劇画イラストの絶妙な融合は、
堪りませんね!!!
今から楽しみに待っています・・・
もうじき、新刊が出る予定ですよ・・・
宮古方言と劇画イラストの絶妙な融合は、
堪りませんね!!!
今から楽しみに待っています・・・
Posted by 琉球弧風来坊・風人
at 2007年10月02日 21:58
at 2007年10月02日 21:58※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
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