2007年09月17日
嘉手川学のryuQ100味[9月号]

八月十五夜は中秋の名月。そこで一句。「名月にウサギ 食べるはフチャギかな」
名月を詠ったわりにはちょっと寸足らずな内容になったが、ちゃんと五・七・五になっているので勘弁願いたい。って、誰の勘弁してもらうつもりなのボクは……。
ま、そんなことはさておいて、もう9月である。
あの、狂気(凶器)なような猛暑、酷暑が続いた7月や8月に比べれば、9月の暑さは、暑さの中に少しだけやわらかな空気が混ざり、横暴だった夏の暑さが少しずつおとなしくなる、そんな感じの暑さでもある。
9月といえば17日の「敬老の日」と23日の「秋分の日」が一般的な祝日ということになっているけど、沖縄の年中行事では旧暦8月8日(今年は新暦の9月18日)に88歳の長寿を祝う「トーカチ」が行われる。八十八歳といえばいわゆる米寿の祝いのことであるが、本土での米寿に祝いがどういうもものか知らないけれど、沖縄のトーカチはバーキと呼ばれる平らな籠や木製のタライに八升八合(地域によって異なるけど)の米を盛り、そこに八寸の竹製斗掻き(とかき)差して飾り立て、お祝いに来た人にその斗掻きを配る行事である。ちなみに斗掻きとは枡に入った米や穀類を計るときに枡の縁に合わせて平らにする道具のこと。その斗掻きにトーカチを迎えた本人の名前と「寿」の文字が書かれており、斗掻きを貰うことで長寿にあやかるという儀式である。この日に食べるものは特に決まっていなく、とにかく祝いに駆けつけて人にクヮァッチー(ご馳走)を大盤振る舞いするのが慣わしである。
また、旧暦8月9日から11日までの3日間は「シバサシ(柴差し)」と呼ばれる物忌みの行事が行われる。旧暦の8月になるとマジムン(幽霊や妖怪、魔物の類)などのヤナムン(悪霊や悪いもの)が村々を徘徊するため、ススキを桑の枝に結びつけた「シバサシ」または「ゲーン」と呼ばれる魔よけを作り、門や家の四隅、庭や軒先、カマドや田畑などに差し魔を払う行事で、仏壇やヒヌカン(火の神)、神棚にカシチー(小豆入りのおこわ)を供えて家内安全を願った。ボクが子供のころは那覇に住んでいるボクの家や近所でも普通にシバサシが行われていたが、沖縄が本土に復帰する前の建築ブームで、どの家も鉄筋コンクリートの2階建ての家になったとたんなぜか行われなくなった。
で、シバサシの時には何を食べたかというと、仏壇に供えたカシチーを食べたのである。カシチーはシバサシのときだけではなく、結婚式や正月などお祝いの行事よく出るので、特別食べたい料理ではないが、あると嬉しい料理(というかご飯だけど)でもある。
では、ボクが紹介したい旧暦8月の行事の食べ物はなにかというと、それは旧暦8月15日に行われる「八月十五夜」で食べる「フチャギ」である。
旧暦8月15日はご存知のとおり中秋の名月で、一年のうちで最も月が美しい季節である。沖縄ではこのころ、月光の下「村芝居」や「八月遊び」「村踊り」「十五夜遊び」「豊年踊り」と地域によっていろいろな名前で呼ばれる、豊作を神に感謝するともに村人が祝う祭りが行われる。そして十五夜の日にはヒヌカンや仏壇、神棚に「フチャギ」と呼ばれる小豆をまぶした餅が供えられるのである。
実はこの「フチャギ」、ボクは子供のころから大好きで、八月の行事の食べ物は「フチャギ」だけで充分だと思うくらいである。

「フチャギ」はモチ粉をこねて俵型というか厚めの小判型に形を整え蒸して、塩茹でした小豆をモチが熱いうちにまぶしたもので、昔はボクの家でもお袋が作っていたが、今では十五夜の時期になるとスーパーやお店などで売られるようになっている。かつては神仏に「フチャギ」を供えることで五穀豊穣や豊作に感謝し、次の年の豊作を願ったという。
ボクはフチャギの塩茹でした小豆が大好きで、仏壇に供えられたフチャギの見えない底の部分の小豆を全部つまみ食いしてお袋に叱られたこともあった。フチャギはそのまま食べると味があまりないので、ボクは砂糖をかけたり砂糖醤油をつけたりして食べるのが好きだった。今とは違い、行事のお菓子はその時期にならないと食べられなかったので、子供のころは十五夜のフチャギが一年に一回の楽しみでもあった。
しかしよーく考えてみると、実はボク、モチはあまり好きではないのである。
中学生のころまでは確かに好きだったけど、高校のときに3カ年間、毎年クリスマスの翌々日から大晦日まで和菓子をやっている同級生の家で、伸し餅や鏡餅など一日に何百個も作るバイトをしたことで、モチを敬遠するようになった。朝7時から夜10時ごろまで15時間労働で、おやつや間食にモチの食べ放題と甘い言葉に乗せられていうバイトをしたのである。以来、ボクはモチはあまり好まなくなった。それでも、フチャギだけは今でも何とか食べるのは、ボクは何よりも豆類が大好きで、豆の入ったものなら料理でもお菓子でも好きだからである。
だから、ボクがフチャギ好きなのは、モチが好きだからではなく、豆好きだから食べていたのであった。ちなみに、小豆アンに包まれたオハギやボタモチもケッコウ好きである。
旧暦八月の行事料理は誰がなんといおうと「十五夜」に食べる「フチャギ」である。

筆者プロフィール:嘉手川 学(かでかわまなぶ)
フリーライター、沖縄県那覇市生まれ。沖縄のタウン誌の草分け『月刊おきなわJOHO』の創刊メンバーとして参画。沖縄ネタならなんでもOKで特に食べ物関係に強い。現在も『月刊おきなわJOHO』で食べ物コーナーを15年以上掲載中。
著書、編著、共著に『沖縄大衆食堂』、『笑う沖縄ごはん』、『泡盛『通』飲読本』(各双葉社)など多数ある。今年になって共著で3月に『沖縄離島のナ・ン・ダ』(双葉文庫)と『もっと好きになっちゃった沖縄』(双葉社)、5月には『沖縄食堂』(生活情報センター)が発売。
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この記事についてもリンクさせていただきましたのでよろしくお願いします。
〝ここが「沖縄フォーク村」さ。。。〟
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Posted by あらかきたかし at 2007年09月21日 20:25
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